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村上春樹原作映画の陰にこの人あり! プロデューサー・小川真司さんに聞く韓国映画「バーニング 劇場版」

文:永井美帆、写真:斉藤順子

「ノルウェイの森」は構想から公開まで7年かかった

――イ・チャンドン監督は「オアシス」(2002年)でベネチア国際映画祭の最優秀監督賞を獲得し、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権下では文化観光部長官などを務めた韓国映画界の重鎮です。どのような経緯で村上作品を映画化することになったのでしょうか?

 きっかけはNHKの企画でした。「村上春樹さんの短編から一つ選び、映画を撮りませんか?」というオファーでしたが、監督は「自分には難しい」と一度は断ったそうです。でも、「納屋を焼く」を読み返して、「ここに描かれている小さなミステリーを拡大させ、人生や世界のミステリーにまでつなげていきたい」と映画化を引き受けたと聞いています。

――小川さんは村上作品の映画化にいくつも関わっています。

 今回の僕の仕事はとても限定的で、原作の権利関係を担当しました。3年前、香港だったかマカオだったか、映画祭に行った時、韓国で大ヒットした「新感染 ファイナル・エクスプレス」を手がけたプロデューサーから「友人が村上春樹さんの小説で映画を撮ろうとしているんだけど、原作の使用許可取得に困っている」と相談を受けたのが始まりです。その「困っている友人」というのが監督の弟で、今作の韓国側メインプロデューサーでもあるイ・ジュンドンさんでした。それで僕が村上さんの事務所との交渉を引き受けることになったのですが、きちんと交渉すると割とすぐに許可が下り、翌年には撮影が始まりました。非常にスムーズだったと思います。僕がプロデュースした「ノルウェイの森」(2010年)の時は、構想から公開まで7年かかりましたから。

 映画プロデューサーの仕事は、映画を作るために必要なリソースを集めることです。監督や脚本家をはじめとするスタッフや制作に必要な資金を集め、完成した作品をどのように世に出していくかという「出口」までを総合的に考えます。映画の規模によって、今作のように私を含む何人かのプロデューサーが役割分担することもあれば、1人で全てをこなすこともあります。

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――原作は1982年に発表された日本を舞台にした作品ですが、映画は現代の韓国に置き換えて大幅に脚色しています。

 最初に映画化の話を聞いた時、これは面白くなるぞ、と。実際、本当に面白かったです。『騎士団長殺し』にも見られるような村上ワールドのダークなエッセンスを色々と採り入れながら、見事に映像化していると思いました。村上さんの作品はマジックリアリズムというか、超現実的な要素が含まれていて、解釈が読む側にゆだねられている部分が多くありますよね。この映画の手触りも小説を読んだ時のそれと非常に似ていると感じました。

人生を積み重ねて理解できる作品世界もある

――昨年12月に来日した監督は記者会見で「最近の映画はシンプルで見やすく、決まったストーリーを追いかける傾向がある。私はその流れに逆行して、映画を通して生きること、人生の意味を問いかけていきたい」と話していました。

 韓国の映画関係者も言っていましたが、こういった内容の作品でも、イ・チャンドン監督だから、これだけお金をかけて映画化できたのだと思います。ほとんど小説を読まないようなティーンの子が見たら、この作品の世界は理解できないかもしれません。でも、人生を積み重ねて10年、20年経って同じ作品を見た時、「こういうことだったのか」と理解できることがある。僕自身、何度もそういう経験をしました。映画や小説の面白いところって、監督や作家がどのように世界を捉え、考えているのか、作品を通して追体験できること。そして、そういった体験を提供することこそが芸術の役割だと思っています。

――小川さんにとって、本はどのようなものですか? 普段はどのような本を読んでいますか?

 村上さんの本は学生時代からリアルタイムで読んで来ました。読んだ当時の自分と重なるので、昔の作品は客観的に評価することが難しいですね。大学に入学したばかりの19歳のころに読んだ『羊をめぐる冒険』は、僕が好きなアメリカの作家レイモンド・チャンドラーの『長いお別れ』が下敷きになっていて、特に思い入れのある1冊です。

 本は小学生の時から好きでした。江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズで推理小説にはまって、SFやミステリー、海外文学を読むようになりました。大学では乱歩が初代顧問を務めた「ワセダミステリクラブ」に入りました。文芸サークルなんですけど、映画を撮って学園祭で上映したこともあります。最近は昔と比べてノンフィクションが面白くなってきました。年齢のせいですね。だんだん世の中の色々なことが分かってくると、もう一つ別の視点で考えるようになります。過去の話を通して、「結局、人間って何も変わっていないじゃないか」というような。年をとると歴史小説が好きになるのも、そういうことだと思います。

 僕にとって本は精神安定剤みたいなもの。書店に行くと心が落ち着くし、頭がさえます。読書は物を考えることの出発点ですから。

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