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池澤夏樹さん「ワカタケル」インタビュー 古事記題材、神話と歴史がせめぎ合う物語 

池澤夏樹さん

 個人編集を務めた『日本文学全集』が今年2月に完結した池澤夏樹さん。自ら現代語訳を手がけた「古事記」から生まれたのが、新刊『ワカタケル』(日本経済新聞出版)だ。神話と歴史がせめぎ合う時代の物語は、スキャンダラスで血なまぐさい。そして、女性たちが鍵を握る。

 「古事記」の現代語訳は2014年刊行。「翻訳は精読だから、ほぼ頭に入った」。よく知られる国生みの上巻やヤマトタケルが登場する中巻よりも、「下巻が面白い」と話す。「政治的な動きが具体化されて権力闘争や武闘もある。そこに女たちが自分の意思を持って関わっている」

 舞台は5世紀、後に雄略天皇と呼ばれるワカタケルは、「乱暴者ですぐ人を殺す。しかし、国家建設者でもある」。親族と争って権力を勝ち取り、豪族や諸外国と駆け引きをしながら国を治めていく。

 一方、神話や伝説も色濃く残る。ワカタケルはしばしば神々に語りかけられ、そばに置くヰトやワカクサカといった女性たちの夢を予言として頼る。化け物や不思議な動物も活躍する。ただし、外交に神は使わず、池澤さんいわく「神話と歴史がモザイクのように並列する世界」だ。

 ワカタケルの武勇伝ばかりかと思いきや、次第に女性たちが前面に出てくるところも興味深い。「もう1人主人公を立てようと思っていたら、ヰトが活躍してくれた。どんどん存在が大きくなっていった」と明かす。

 本紙朝刊で連載中の「また会う日まで」も歴史に材を取ったが、今後の展開の中で「女性が重要」というのも共通点だという。「男性中心の今の日本社会に対する強烈な反発があるから、僕は」(滝沢文那)=朝日新聞2020年9月30日掲載