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Riverside Reading Clubが小岩のライブハウスでおしゃべり。コロナ禍で生まれる、新しいコミュニケーション【後編】

文:宮崎敬太、写真:有村蓮

Riverside Reading Clubが小岩のライブハウスでおしゃべり【前編】はこちら

アーヴィン・ウェルシュ「トレインスポッティング」

ikm:俺は『トレインスポッティング』という大ネタを持ってきました(笑)。たまたま何も本を持ってなかった日の帰り、BOOKOFFに行ったけど読みたい本が見つからなかったときに目について、勿論映画も知ってたから「いっとくか……」みたいなノリで買ったんです。そういうちょっと舐めたところから読み始めたら、「これヤバいかも……」って。映画にも出てきたレントン、シック・ボーイ、スパッド、ベグビー、トミーに加えてもっとたくさんの登場人物が出てきて、その人物ごとに章が分かれてるから短編集みたいに読みました。小説を読んで映画も観直したら、イメージと違って映画も驚くほど出口のない話でしたね(笑)。

ライター宮崎:主題歌になってるイギー・ポップの「Lust For Life」の勢いで持ってかれるイメージですよね(笑)。

ikm:彼らはヘロインを注射で打っていて、イギー・ポップのファンだったりするんですけど、みんなでヘロインを打ってる時に、ルー・リードが歌う「ヘロイン」をかけたら、誰かが「超悪趣味」って思う、みたいなシーンは笑いました。あと映画ではドラッグで高揚してるシーンが多い気がしたけど、原作は禁断症状に苦しんでる描写が多いですね。そもそもレントンの「ヤク抜き」の描写が中心にあったりするし。

(原作は)映画ではしょられてるディテールも興味深かったですね。舞台のスコットランドのバーに、「スクリュードライバー」っていうネオナチといわれているバンドのTシャツを着てるやつがいて、良い悪いというよりリアルだなと思ったり。あと彼女の誕生日とイギー・ポップのライブが重なるエピソードがあるんですね。映画ではさらっと終わっちゃうけど、原作ではひとつの短編になってるんです。「スコットランドはドラッグという名の精神安定剤を飲む」というタイトルなんですけど、これはイギー・ポップの「Neon Forest」という曲の「アメリカはドラッグという名の精神安定剤を飲む」のもじりで、それがオチにもつながっていくっていう話でとても良い”短編”だと思いました。

ライター宮崎:ちょっと前に映画の続編「T2」が公開されてましたよね。

ikm:その予告編にも「未来を選べ、人生を選べ」という言葉が出てくるんだけど、俺は「いやいや、こいつらには選択肢なんてないから」って思っちゃいました(笑)。

Lil Mercy:絶望しかない(笑)。

ikm:そうなんですよ。恋人の元カレから恋人を介してエイズを移されてしまった男がその復讐をする話があって、その話もヘヴィーだし絶望感もあるんだけど、すごく良い短編で。多分独立した短編として完成されてるから、映画には入れられなかったんだと思うんですけど。

なんだかんだ言って、作家が自分の話をしてる作品が好きなんですよね。書き手が実際感じた特別な感情は、創作にも入り込んでいると思っていて。それを感じたときとまったく同じ出来事じゃなくても、置き換えて表現出来ると思ってます。そこに人生を感じるし、そういう物語が読みたいなって。特にデビュー作は著者の実体験が色濃く物語の細部に出てくると思うんですよね。作家自身の感情や人生がより色濃く描かれているというか。アーヴィン・ウェルシュは短編も沢山書いているけど『トレインスポッティング』は一応長編デビュー作で、そういう部分もあるんじゃないかなと思ってます。

アントナン・アルトー「タラウマラ」

Phonehead:アルトーというフランスの詩人が、メキシコのタラウマラ族のところに行って、シャーマニズム的な儀式を経験した際に書かれたものです。この本を買った大阪の東淀川にある同じ名前のお店の話をしたくて持ってきました。

Lil Mercy: タラウマラというお店は本当にすごいんですよ。大阪というと、自分はライブハウスやクラブがある心斎橋とかに行くことが多いんですけど、東淀川は雰囲気が全然違う。そしてタラウマラには近所の謎の人物が集まってて、その会話を聞いてるだけで面白いんですよね(笑)。

Phonehead:タラウマラは自転車屋さんなんですけど、古本やCD、レコードとかも取り扱ってて。土井さんという方が店長をされてるんですけど、これが本当に面白い人で。僕は大学で美術研究を勉強してたんですけど、回を重ねるごとに飽きてきてしまって、一番嫌気が差していたタイミングで卒業論文をでっち上げなければいけなくなってしまって、保坂和志の小説論に記述のヒントを求めた、という経緯があるんですが、土井さんと最初に話したときに土井さんも保坂の読者だと知って、それでものすごく話が合って。

Lil Mercy:なのに普通のママチャリを売ってて、自転車の修理とかもしてる。

Phonehead: 「カルチャー」みたいな事で自転車屋となるとBMXとかスポーツバイクのお店をイメージすると思うけど、全然そうじゃなくて、いい感じに窮屈な普通の街の自転車屋さん(笑)。土井さんは自転車、古本、CD、レコードをお店で取り扱うことで、循環=サイクルを生み出したいと言っていて、自分とお店を「サイクルショップ」と自称されています。商品だけじゃなくて、それを介したコミュニケーション自体が商品というか。それを土地に根差したローカリティーの中で展開されていて、僕は土井さんのバランス感覚に本当に衝撃を受けました。

ikm:インスタで書いてる本の感想も最高ですよね。

Lil Mercy:それこそ、自分が読んでるタイミングでシーラッハの感想が上がってました。

Phonehead:土井さんが今度ZINEを出すんですよ。彼がインスタグラムで書いていた日記が冊子で読めます。土井さんは僕がいま唯一、連載を追いかけている作家・文学者なのでまとめて読めるのがすごく楽しみなんです。

Lil Mercy:また東淀川の雰囲気も独特ですよね。魚屋さんとか八百屋さんはあるけど、18時くらいには閉まっちゃうし。そうすると街の飲み屋とかしかなくなっちゃって。ご飯食べるお店も全然ない。でもタラウマラは面白いんですよ。初めて行った時は2時間半くらいいました。街のおじさんたちが話してる様子を遠巻きに眺めたりして(笑)。

ikm:僕は行ったことないので、ぜひこの連載で行きましょう!(笑)

アントニオ・タブッキ「島とクジラと女をめぐる断片」「供述によるとペレイラは……」

柿沼:アントニオ・タブッキというイタリアの作家がいるんですよ。全然知らなかったんですけど、本屋さんで見かけた『島とクジラと女をめぐる断片』のジャケがすごくきれいだったんで買ってみたんです。そしたら光の輝きや熱をきれいに文章で表現する風景描写がすごく良くて。そこから彼の作品をちょいちょい買うようになりました。で、最近コロナでどこにも行けないから想像力がすごいことになってて、なんとなくタブッキの旅行記を読んでたら、行ったこともないどこかの島なのに、なんか行った気になって超テンションが上がって(笑)。

Lil Mercy:それは面白いなあ。

柿沼:めちゃくちゃ行きたくなるんですよ(笑)。あと食べ物の話がすごい出てきてどれも美味しそうに書いてるんだけど、固有名詞は書かないんですね。きっとお酒がメインなんですよ。なのにレモネードだけはやたらと出てくる。そうすると、こっちも妙に飲みたくなったり。お店で働いてる子たちと仕事のあとにたまに飲みに行くんですけど、そのうちの一人がレモネードを頼んだんです。「珍しいね」って言ったら、「今読んでる本によく出てくるから飲みたくなっちゃって」って。そしたら同じ本だったという(笑)。

ikm:やべー、何その話(笑)。

柿沼:ちょいちょいタブッキの本を読んでいて『供述によるとペレイラは……』にたどり着いて。舞台はファシズムに傾倒しはじめたポルトガル。主人公は新聞記者で結構保守的な人。でも、とある出会いから人生を変えるような行動をとるようになる、というストーリーです。僕が衝撃を受けたのは「過去と付き合うのはもうおやめなさい、未来とつきあってごらんなさい」というライン。さっき(前編)の『こびとが打ち上げた小さなボール』と同じく、今の自分の心境にぴったりでした。買った時はこんな内容だと思ってなかったんですけどね(笑)。コロナで落ち込んじゃったけど、タブッキの2冊を読んで、外の空気が気持ちいいってだけでテンションを上げられるようになりました。

雑誌「DAWN」

Lil Mercy:最後に紹介したいのは「DAWN」という雑誌です。自分も参加させてもらったんですけど、それぞれのステイホームみたいなことがテーマになったインタビュー集みたいな感じです。GUCCIMAZEのようにコロナに感染してしまった人は実際どういう感じだったのか、みたいなことも書かれていて。そういうのってSNSで読むと変な感じに歪められちゃったりするけど、本という形になってることでしっかりと伝わってくるものがある。

ikm:SNSと違って自分のペースで、読みたい時に読めるってのもやっぱり重要だと思うな。

Lil Mercy:しかもこれって、すべてリモートで制作されてるんですよ。自分のインタビューも載ってるんですが、メールでしたし。ヒップホップ、ダンスミュージック、デザイナーの方などいろいろな人が書いているので面白いですよ。こういう企画があって、参加させてもらったことで形にできたんですよ。本当にありがたいと思いました。

ikm:俺は「DAWN」のインスタグラムの方に載ったマーシーくんのインタビューを読んですごく感動したんですよ。一問一答ってちょっとふざけちゃったりしがちだけど、マーシーくんは真正面からしっかりと真摯に答えてるんです。それが本当に良くて。そしたら植本一子さんから「マーシーくんかっこいい」みたいなメッセージが来て。「ですよね!」って思いました(笑)。

Lil Mercy:自粛期間で単純に発言できる機会が減ったから、なるべくふざけないようにしようと思ったんですよ。そういうのも表現だから全然良いと思うけど、自分は真面目にやろうかなって。

ルース・ベネディクト/阿部大樹(訳)「レイシズム」

Phonehead:そもそも本て一人で勝手に読んでたらそれでいいと思うんで、改めて、こうやって読んだ本の感想を言い合うのって楽しいですね。この前、部長(ikm)から付箋がめっちゃいっぱい貼ってある『レイシズム』をいただいたんですよ。

ikm:実は前回紹介した『レイシズム』を翻訳された阿部大樹さんがこの連載を読んで、しかもトミヤマカレーに行ってくれたらしいんですね。それを宮崎(希沙)さんから聞いて、俺もブチ上がって速攻で『レイシズム』を買いました。当然素晴らしい内容だったので、付箋貼りまくって、Phoneheadくんにパスした感じですね。

Lil Mercy:ikmくんが愛用してる一行ごとに貼れる付箋がたくさん(笑)。

ikm:こうして気に入ったラインに付箋を貼ったり、線を引いたりすると、自分が何を考えているのか、どういう思想なのかが結構生々しく出ちゃうから、付箋付きは信頼できる友達にしかあげられない(笑)。