1. HOME
  2. インタビュー
  3. BOOK GIVES YOU CHOICES
  4. Riverside Reading Clubがトミヤマカレーで座談会 雑多な街・大塚はブルックリン!?

Riverside Reading Clubがトミヤマカレーで座談会 雑多な街・大塚はブルックリン!?

文:宮崎敬太、写真:北原千恵美

Riverside Reading Clubの新連載がスタート! 「BOOK GIVES YOU CHOICES」の名前に込めた思いとは?

1回目のゲストはトミヤマカレーの永井志生さんと宮崎希沙さん

Lil Mercy:この連載では毎回ゲストに登場してもらって、好きな本の話を聞こうと思っています。記念すべき1回目は永井志生くんと宮崎希沙さんのお二人。

ikm:4月に「トミヤマカレー」というカレー屋さんを東京の大塚でオープンしたばかりなんです。

永井&宮崎:よろしくお願いします。

Lil Mercy:知り合ったきっかけは、僕のレーベル・WDsoundsからアルバムを出した仙人掌のPV撮影の時に(永井)志生くんが運転手として手伝いに来てくれたんです。志生くんはSNOWLESSという名前でDJもやっていて、僕もパーティーにDJとして呼んでもらったりしてるうちに親しくなっていった感じですね。

SNOWLESS名義でDJとしても活動している永井志生さん(左)と、グラフィック・エディトリアルを中心に活躍するデザイナーの宮崎希沙さん。自らが企画・編集・デザインを手がける自主出版レーベル”MESS”も運営している。https://kisamiyazaki.com

宮崎:梅ヶ丘にあるQuintetというDJバーでやった「BLACK CAB」というパーティーですね。実はそこで志生くんはカレーを作って販売してたんです。私たちは夫婦なんですけど、夫はその時DJとしての出番もあったのでめちゃくちゃ大変そうでした(笑)。

永井:でもその時にみんなが僕の作ったカレーを美味しいと言ってくれたんです。それがすごく自信になって自分のお店を持とうと思えるきっかけになりました。

宮崎:夫はもともと「curry草枕」という新宿のカレー屋さんで働いてたんです。私はその先輩。大学生の頃からバイトしてました。私は2010年から「curry note」というZINEを年に1冊ペースで作ってて。デザイン系の学校に通っていたので、高い授業料の元を取ってやろうと数千枚単位でプリントしまくってましたね(笑)。10周年の去年、「CURRY NOTE SPDX 2010 - 2019」という合本にしました。

ikm:「curry note」はいわゆるカレーのファンジンなんです。俺はファンジンが大好きなんです。人が好きなものについて書いてる文章が好き。だから普通に「curry note」を買ってたんですよ。そしたら「TOKYO ZINESTER GATHERING」というイベントで宮崎さんが声をかけてくれて。

宮崎:RRCのTシャツを着ていたので(笑)。「curry note」に関しては食べログみたいにレビューするんじゃなくて、好きなカレー屋さんに行った時の思い出を書いています。

Lil Mercy:読み物としても普通に面白いと思います。ついついページ開いてますね(笑)。

藤子不二雄A「まんが道」/ポール・オースター「スモーク」「ブルー・イン・ザ・フェイス」

永井:僕は活字より映画を観たり、マンガを読むことが多くて。だから実はちょっと読書コンプレックスがあります(笑)。ちなみに、今日持ってきたのは『まんが道』です。

Lil Mercy:『まんが道』はクラシック。

永井:藤子不二雄の二人は上京する前に富山県の高岡という街に住んでたんですが、実は僕も富山出身で。28歳までは富山の実家に住んでました。でも読んだのは最近。なんとなく読んだら、めちゃくちゃ面白かった。しかも僕が高校行く時、実際に通ってた高岡古城公園とか高岡大仏とかも出てくる。

Lil Mercy:その視点で読めるのは、羨ましいな(笑)。俺は単純に成長ストーリーとして大好きなのと、見せ方のアイデアがすごく面白いんですよ。二人が当時描いてたマンガが劇中劇みたいに出てきたり、二人が観た映画の感想がマンガになってたりもする。あとコメディとしても超面白い。手塚治虫にステーキをおごってもらった時に鼻血出すシーンとか最高。

宮崎:「んまーい!」ですよね(笑)。

ikm:それ系でいくと「チューダー」じゃない? 焼酎とサイダーを混ぜたトキワ荘名物の飲み物。「きくー!」って。

Lil Mercy:テラさんが作ったやつね。でも冷静に考えると、俺、『まんが道』のキャラクターとしてテラさんのことは知ってるけど、モデルになった寺田ヒロオのマンガは読んだことないな。

宮崎:私も。これ、どういう客観性で描いたんだろうなってすごい思った。

Lil Mercy:そうですよね。言っちゃえばテラさんは“トキワ荘”のムーブメントに乗れなかった人なわけだし。普通に大好きなマンガだけど、こうやって改めて話してみると実はかなり特殊な作品なのかもって思えてきた。

ikm:時代もしっかり描いてるってのはデカいよね。

宮崎:ちなみに夫は『まんが道』を近所のサウナで知ったんですよ。そこがすごく昭和なところで。古き良きと言いますか、大塚っぽいと言いますか。怖い人はもちろん、いろんな国の人がいるんですよ。その流れで言うと、実は昨日、取材の予習として二人でとある映画を観ていたんですよ。

永井:はい。それが「ブルー・イン・ザ・フェイス」という作品で。僕はヒップホップの影響で、昔からニューヨークが大好きなんです。「ブルー・イン・ザ・フェイス」は「スモーク」の続編のような作品で、ニューヨークのブルックリンを舞台にした群像劇です。僕は「スモーク」が本当に大好きなんですよ。

ikm:どちらもポール・オースターが原作ですよね。

宮崎:そうそう。実は一昨年のコロナが流行る前に、二人で初めてニューヨークに行ったんですよ。お店を始めたら当分行けないだろうからって。

Lil Mercy:お、ということは映画や本に出てくる場所も行ったんですか?

永井:実は向こうに行ってた時は「スモーク」のことも「ブルー・イン・ザ・フェイス」のこともすっかり忘れてたんです。でも昨日「ブルー・イン・ザ・フェイス」を観てたらプロスペクトパークのことを話してて、「えっ? それってうちらが泊まってたとこだ」って。それを昨日気づいたという(笑)。

Lil Mercy:後から気づくのって最高ですよね。途端に本や映画が自分の中でより素晴らしいものになる。

ikm:本で読んだ場所に行くって憧れるなー。

Lil Mercy:ニューヨークは俺も大好きで、本当にいろんな本を読んでいろんなことを想像しまくってました。それで実際に行ってみると「やっぱりこのエリアにはこういう人が住んでるんだ」ってなる。それでまたニューヨークについて書かれた本を読むとさらに想像の解像度が高くなる。

宮崎:あと「ブルー・イン・ザ・フェイス」は「スモーク」よりもコメディタッチだからか、その雑多なドタバタ感がなんか大塚っぽいんですよ。もちろん「ものすごく良く言うと」っていう注釈付きですけど(笑)。

Lil Mercy:あー、でもそれなんかわかります。大塚っていろんな人が暮らしてるんですよ。人種も職業もいろんな人がいて、何やってるか結構わからない(笑)。

ikm:大塚=ブルックリン説。

Lil Mercy:最近開発されてきてるとこも一緒ですね(笑)。

宮崎:トミヤマカレーの近所にはモスクがあるし、中華料理屋も多い。さらに向かいにはアメリカの人が経営してるクラフトビールのバーがあって、そこはヨーロッパ系のお客さんも結構いて。そんな土地だけに、本当にいろんな意味でいろんな人が来るんです。

ikm:確かに普通に道を歩いてるのと、街の一部としてお店を構えてるのじゃ、雑多の意味合いも変わってきますよね。

永井:そうなんですよ。最初はコロナで先行きが見えない中でお店をオープンして、そのあまりの雑多さに面食らってもいたんだけど、最近は徐々に「スモーク」の店主みたいにいろんなお客さんとの触れ合いを楽しんでいこうって思えるようになりました(笑)。

ラルフ・エリスン「Invisible Man」

Lil Mercy:ニューヨークつながりということで、自分が紹介するのは『Invisible Man』というフォトブックです。この本はラルフ・エリスンの『見えない人間』という有名な黒人文学を元にしています。

ikm:『見えない人間』は1930年代のニューヨークのハーレムを舞台にした作品で、当時のアメリカ社会における黒人について書かれた作品です。でもこの本は日本では完全に絶版で、古本屋で本当にたまに見かける程度。2000年代に再販されたけど、上下巻に分かれてて、定価も5000〜6000円とかなり高い。古本でも安くはない価格なんですよ。だから上巻しか持ってないです。

Lil Mercy:そうなんですよ。だから自分も『見えない人間』は読めてなくて。見かけても金がなくて買えなかったり(笑)。このフォトブックはたまたま古本屋で見つけて購入しました。買って観た時はそこまで原作を意識してなかったんです。写真家がイメージを膨らませてビジュアルを作った作品なのかな、くらいに思ってました。でもこの自粛期間中に見返してたら、実は原作のストーリーを忠実に写真にしてることに気づいて。それで面白いなと思って、今日持ってきたんです。

ikm:このフォトブックを観るとわかるけど、当時のハーレムって完全に黒人の街なんですよ。

Lil Mercy:そもそも『見えない人間』というタイトルもすごいですよね。いないものとして捉えられている。人間と思われてない。僕はこの本をラッパーのマスター・Pが製作総指揮をした「ロックダウン」という映画で知りました。冤罪で投獄された無実の黒人スイマーの苦悩を描いた映画なんですけど、主人公が刑務所でいつも本を読んでる黒人のおっさんと出会うんです。その人が読んでるのが『見えない人間』なんです。それで興味を持って探してみたんだけど、全然売ってなかったのでラルフ・エリスンの短編集から読み始めました。それが自分が読書をはじめるきっかけなんです。

ikm:そうなんだ?

Lil Mercy:うん。短編では結構同じ主人公がよく出てきて、南部の黒人が北部を目指す話が多いですね。

ikm:あー、なるほど。南部の黒人はまずシカゴに出てきて、そこからニューヨークに行くというパターンがある気がするんですよね。

Lil Mercy:特に南北戦争直後くらいの頃はね。「北だったら差別がないんじゃないか」って。でもラルフ・エリスンの短編を読むと、子供に「むやみやたらに外に出るな」「遊ぶなら裏庭にしなさい」という描写が出てきたりする。最初からストレンジフルーツ=リンチの話ですしね。あと同じくアメリカで差別されてるユダヤ人のことも話に織り込まれてます。ラルフ・エリスンは黒人社会の中でもものすごく評価されている人なので、すごくおすすめしたいんですが、ちょっと訳が古いんですよ。

ikm:うん。硬いよね。文学文学してるというか。本来黒人文学の文章はもっとグルーヴしてるはずなんですよ。そういう意味では『フライデー・ブラック』みたいな、今の感覚で翻訳された本のほうがよりニュアンスをつかみやすいと思う。前も言ったけど、黒人文学は、黒人がどういうシステムの中で、どのように抑圧されてるかってことをずっと描き続けてて、本質的なテーマは変わらないんですよ。

Lil Mercy:やっぱり表現して残すことが重要だと思うんですよ。だからこうして自分たちも黒人の現状を知ることができる。それってものすごく大切なことだと思う。

ikm:あと『Invisible Man』は純粋に本としてカッコいいっていうのもヤバい。

ルース・ベネディクト「レイシズム」/竹内佐千子「赤ちゃん本部長」

宮崎:今翻訳の話が出てきましたけど、私は父が村上春樹世代で、その影響もあって柴田元幸さんが翻訳した本を結構読んでるんです。

ikm:それこそさっきのポール・オースターはほとんど柴田さんの翻訳ですよね。

Lil Mercy:気がつくと柴田さんの本が本棚に並びがち(笑)。

宮崎:その柴田さんたちが日本翻訳大賞というのをやってて。

ikm:金原瑞人さんをはじめ、岸本佐知子さん、西崎憲さん、松永美穂さんという有名な人たちが毎年やってる賞ですね。

宮崎:今年は『精神病理学私記』を翻訳した阿部大樹さんが受賞されたんですよ。でも『精神病理学私記』は私にはちょっとハードルが高いなと思って、同じく阿部さんが翻訳されている『レイシズム』を買ってみました。大塚に来てから分断について考えることが多くて。人種的な意味でも、フェミニズム的な意味でも。この本にはなぜ差別的な発想が生まれてくるか、ということがものすごくわかりやすく書かれています。でも実はまだこの本を全部読んでないんですよ(笑)。なので、分断をテーマにもう一冊持ってきました。

Lil Mercy:マンガですね。

宮崎:竹内佐千子さんの『赤ちゃん本部長』というマンガです。おじさんがある朝起きたら赤ちゃんになってた、という話(笑)。中身はそのままだから仕事はできる。でも赤ちゃんなのでおむつしなくちゃいけないし、離乳食を食べなきゃいけないし、お昼寝も必要な身体になっちゃうんですね。自分で歩けないから、部下に抱っこしてもらって営業先に行ったり。このおじさんはバリバリの営業マンで、給料も高くて、もともとかなりマッチョな思想の持ち主だったんですよ。でもいきなり赤ちゃんという究極の弱者になってしまうことで、今まで見えてこなかった部内のいろんなことが見えてくる。そこにはジェンダーや家族についての多様な考え方があって。きっとそれまでのおじさんのままだったら気づけなかったいろんなことを、優しい視点から捉えられるようになるんです。

Lil Mercy:面白そう!!

宮崎:基本的にはギャグっぽい感じで読めるし、何より赤ちゃん本部長はかわいいんです。でも分断の根本的な部分をかなりしっかりと描いていて、しかも押し付けがましくもない。「日本には差別がない」と思う人も、これを読むといろんなことに気づけると思う。竹内佐千子さんは大好きなマンガ家なんですが、この『赤ちゃん本部長』は特におすすめです。

ikm:これってSFとやってることが同じですよね。特殊な状況を作ることで社会が見えてくるっていう。しかも読み手にとっては特殊な状況がフックになるわけじゃないですか? 俺はSFって社会を描くものだと思ってるんですよ。だから絶対に俺は『赤ちゃん本部長』好きだと思います(笑)。

「DONATION ZINE 最近の好物100人 2020・春」

Lil Mercy:じゃあ、最後に宮崎さんが作った「DONATION ZINE 最近の好物100人 2020・春」を紹介していただきましょう。

宮崎:私は「curry note」がきっかけで、いろんな個人書店の人たちとつながりができたんです。そういう書店は今回のコロナ自粛でかなり厳しい状況に追い込まれてて。中には休業補償がもらえてないようなところもあるんです。もちろん大きな書店が大変ということも知ってるけど、個人でやってるところは本当に大変で。それで何かできないかと思って、私と、「いこい」というミニコミを作っているライターのイーピャオくん、マンガ家の小山ゆうじろうくんの3人で「DONATION ZINE 最近の好物100人 2020・春」というZINEを作ったんです。クラウドファンディングは乱立しすぎてるし、せっかくなら本を売ることで寄付につながるものが良いと思って。価格の1000円はそのまま本屋さんの収入になります。「最近の好物」をテーマに曽我部恵一さん、都築響一さん、植本一子さん、しまおまほさんみたいないろんな人に寄稿してもらってます。もちろんikmさんにも(笑)。

ikm:俺、入稿した後に原稿のテーマを間違えちゃったくさいと気付いちゃったんですけど大丈夫でしたか?

宮崎:全然オッケーですよ! ikmさんは小説の登場人物の好物について書いてくれてて、それはRiverside Reading Club的にも最高だなって感じでした(笑)。

Lil Mercy:このZINEはいろんな意味で、本当に最高なので是非買って読んでほしいです。

☆取扱店はこちら