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Riverside Reading Clubが小岩のライブハウスでおしゃべり。本と自分と社会がリンクする【前編】

文:宮崎敬太、写真:有村蓮

フェルディナント・フォン・シーラッハ「刑罰」

Lil Mercy:今日は東京・小岩のライブハウス「BUSH BASH」にお邪魔してます。

柿沼:8月にうちのお店のアニバーサリーパーティ「…in best place」をRRCと共同で開催したんです。

Phonehead:BUSH BASHには僕もお世話になっていて、8月の頭にお店の11周年を記念するパーティーをやらせてもらいました。

ikm:俺は前身の「eM SEVEN」の頃から通ってて。BUSH BASHはみんながお世話になりまくってるお店なんです。

Phonehead(右)=PIANO AND FORESTというレーベルを運営するハウスDJ。Lil MercyとのユニットMejiro St. Boyzのメンバー 柿沼実=小岩BUSH BASHのオーナー。TIALA、younGSounds、FIXEDなどさまざまなバンドに所属している

Phonehead:今日は、この前みんなでご飯を食べた時に話題になったシーラッハを持ってきました。この『刑罰』をマーシーさんが貸してくれたんです。僕自身はRRCに入るまでは、同時代のクライムノベルは全く縁がなくて読んでこなかったんです。でも借りたからには読まなきゃと思って、読んだらすごく衝撃を受けてしまって。

刑事事件の弁護士をしていたシーラッハが、自分の経験を元に書いた本です。法廷サスペンスっぽいとことか、カーチェイスのシーンもあるんですけど、それが克明に描写されて手に汗握る、とかそういう事ではなくて。あと、必ずしも内容に即したことではないのですが、自分の内にあるものを外に向けて表現する時って、書く時でも、話す時でも、自分の中にある言葉の内圧を上げる必要があると思うんですけど、『刑罰』にはそういう感覚が詰まってる。それは本の内容として言葉で書かれた文字の連なりだけではなくて、いわば言外にも「言葉の素」が充満しているというか・・・・・・っていう説明では曖昧すぎてわからないですよね(笑)。実は紹介したはいいけど、自分の感動をうまく言葉にできないんです。

Lil Mercy:たぶんこれを読んだ人はみんなそういう感じになると思うよ。自分はBOOKOFFで見かけてJKTも良かったので、なんとなく買って読んだらあまりにすごくて食らっちゃって。シーラッハをこの時期に何冊か立て続けて読んでいて、話したくてたまらないタイミングでPhoneheadが遊びに来たので、「読んでみてください」ってプレゼントしたっていう。

ikm:『刑罰』は本当にすごいです。この本、日本でもめちゃくちゃ売れたんですよ。2012年に出たシーラッハのデビュー作『犯罪』は本屋大賞の翻訳小説部門で1位になってるし。この本って読みやすいんですよ。さらっとしてて翻訳っぽい文体じゃない。きっと元の文章もシンプルなんだと思う。だけど内容はクソ深い。俺もマーシーくんのインスタをきっかけに読みました。売れた本だけあって、すぐに見つけられました(笑)。

Lil Mercy:タイトル通り、「罪とはなんなのか?」がテーマになってるんだと思います。

ikm:この本は主人公の弁護士が事件を語っていくんです。罪を犯した人の一人称語りではない。

Lil Mercy:おそらく被告人もすべてを弁護士に話すわけではないので、内面や感情はそんなに出てこないんだと思います。

柿沼:語りはかなり淡々としてますよね。

ikm:うん。最初にかなり凄惨な事件が起こるんです。でも詳細をつぶさに書くんじゃなく、「こういうことが起こった」くらいさらっとしてる。でもその事件については、そういう文章じゃないと読めないくらい嫌だった。

Phonehead:『刑罰』の最後に主人公が、刑事弁護がどれだけ辛いか独白する場面があるんです。非業の死はどんな臭いがして、どういう状況で、残された人にどんな影響を与えるかをみんなは知らない、みたいな。淡々とした文章の中にあって、その最後のあまりに不吉な雰囲気にゾッとしました。

ikm:著者の祖父がヒトラー・ユーゲント(ナチスの青少年組織)の指導者だったんですよね。

Lil Mercy:生まれながらに業を背負ってるというか。だから罪をテーマした作品が多いのかもしれないですね。

柿沼:僕はこの本が日本で売れたことにちょっと希望を感じました。

チョ・セヒ「こびとが打ち上げた小さなボール」

柿沼:僕は『こびとが打ち上げた小さなボール』という本を持ってきました。この本は軍事政権下で高度経済成長する1970年代の韓国が舞台で、格差、階級、障害者差別をテーマにした短編が連なってひとつの物語を作る連作短編集です。差別の状況があまりにもひどくて、僕は途中でめまいがするほどムカつきました。

ikm:この本は、日本でもものすごく話題になった『82年生まれ、キム・ジヨン』を手がけた斎藤真理子さんの翻訳ですね。韓国文学はだいたい斎藤さんが翻訳されてる気がします。

柿沼:この本が素晴らしいのは、「この社会において生きるとはどういうことなのか」「人の尊厳とは何か」を問いかけていることだと思いました。力が強いから良いとかじゃなく、めちゃくちゃな状況の中でも、それぞれが自分の価値観を生活の中で探していくことの意義を、すごくさらっと書いてるんですよ。

例えば「自分たちが得ているのは生存費だ」という記述があるんです。働いて所得を得て、それで生きるための権利を買ってるんだって。パッと読むとこれは身も蓋もない、残酷なラインで、時代も国も違うけど、この本に書かれていることは今の日本の状況に似てる。僕はお店をやってるからか、そうした人の気持ちの変化、差別心が気づかないうちに露出してしまっていることを目の当たりにすることも多くて。あと、ちょうどシーラッハの『刑罰』と『犯罪』を読んだ後にこの本を手にしたので、僕の中ではリンクする感覚がありました。

ikm:良い本って社会のこともしっかり描かれてるので、別の国や時代を書いた本を読んでいても、間に自分が挟まることでつながってしまうんですよね。例えば2冊別々の本を読んでも、自分が考えていること、経験したことがその間にあれば、その2冊は自然とつながると思う。別にこじつける気持ちがなくても、柿沼くんがシーラッハの後に『こびとが〜』を読んで、リンクを感じるのは自然というか。

Lil Mercy:前に読んでた本から影響を受けて、勝手に繋がっちゃうことありますよね。

柿沼:わかります。あとその影響を受けて、僕自身もいろんなことを経験して、さらに次の本を読むから、無数のインプットがパズルのピースのようにハマって形を成していくんですよね。こういうのって全部統計学で説明できるらしいんですよ。Low Visionというパンクバンドの稲葉くんが言ってたんだけど、専門的すぎて全然わかりませんでした(笑)。

Lil Mercy:自分もLow Visionと一緒にツアーを回ったから、よく車の中で統計の話をしてくれたんですよ。ものすごく専門的な用語がちょいちょい出てくるけど、話は面白かったから勉強しようと思って本を買ってみたけど、難しすぎて読みきれなかったですね(笑)。

柿沼:この世の膨大な事象を統計の視点から見れば、さまざまな出来事を説明できるっていう。でも稲葉くんの話は自分には難しすぎて。そこから急にINCENDIARYの曲が好きだって話になって、統計学と同じフィールドで聞いてたら頭が狂いそうになりました(笑)。

ikm:きっと稲葉くんの中では筋が通ってるんだろうね(笑)。ちなみにINCENDIARYはニューヨークのハードコアパンクバンドです。

Lil Mercy:そのINCENDIARYのメンバーが在籍するバンドのツアーを来年ここでやるんですよね。

ヴァージニア・ウルフ「ダロウェイ夫人」「ある協会」

Lil Mercy:RRCとして「ラッパーたちの読書メソッド」で取材してもらったあと、ikmくんと本屋に行ってヴァージニア・ウルフの『ある協会』を買ったんです。本当はそれを持ってこようと思ってたんだけど、ちょっと見当たらなかったので、同じ著者の『ダロウェイ夫人』を持ってきました。ヴァージニア・ウルフはイギリスの作家です。自分はアメリカの本を読むことが多いんですけど、たしかポール・オースターの『ブルックリン・フォリーズ』の中に『ダロウェイ夫人』の話が出てくるんですよ。

第一次世界大戦のあとのロンドンを舞台にした、ある一日の話です。これも連作短編で、ダロウェイ夫人を中心にいろんな登場人物が出てきます。ある人はロンドンを歩いていて、どこそこの角を曲がった時、昔ダロウェイ夫人と付き合っていたことを思い出したり、その人は何気ない日常の一場面を思い出して恥ずかしくなったり。さまざまな人の心情と、目に浮かぶようなリアリティある風景描写が合わさる。自分はまだ行ったことないけど、ロンドンを散歩するとこんな気持ちになるかなって思った。例によってまだ読み終わってないんですが(笑)。

ikm:『ダロウェイ夫人』もクラシックなんだと思うけど、やっぱり『ある協会』がいろんな意味で特別ですよね。etc.booksというインディペンデントなレーベルがリリースした、この短編だけを収録した小冊子なんです。

Lil Mercy:装丁もZINEっぽい。

ikm:すごく薄いしね。『ある協会』は若い女性たちが「ねえ、男の人たちって本当に私たちより優れているの?  私たちって本当に男性よりも劣っているの?」というふとした疑問から生まれた議論について書かれた、多分直接的なフェミニズム文学。

Lil Mercy:女性たちが結婚や主婦として生きることに素朴に疑問を持ち、ある女性は男装して男性の社会を経験してみたり、別の女性は図書館の本を片っ端から読んで研究したりするんです。それで数年後にまた集まってみんなで発表する。中には主婦として生きることを肯定する人や、恋愛の素晴らしさを再認識する人もいる。いろんな人がいる、っていうのがすごく良くて。「正しいこと」は画一的じゃなくて、ある面では人によって違うし、同時にみんなが知らなきゃいけない正しさもある。そういうことを知れて、これは本当にすごく面白かった。ちなみに『ダロウェイ夫人』は直接的にフェミニズムについて書かれたものではないけど、『ある協会』を読んだ後だと自分でそっちに寄せて解釈しちゃう部分もありましたね。

ikm:俺らのような男性ができることって、そういった本を読むことも含めて女性の話を聴くことだと思うんです。彼女たちがどういう社会に生きていて、抑圧されてしまっているか。本当はそんな抑圧をする社会の構造を変えなきゃけいけないんだけど、個人ではすぐにはそこまでは至れない。だからまず否定することなく女性の話を聴いて、知り、自分がその抑圧に加担しないように気をつけ続けることが重要だと思います。自分は80年代生まれで、家父長制とか女性を抑圧するシステムが今よりさらに当たり前にあった時代を生きてきてるから、無意識に刷り込まれたそういうものは完全には消えない。だからこそ常に意識して気をつけ続ける必要があるんだと思います。

Lil Mercy:そうですよね。無意識のうちにやってしまってるんですよ。だからこそフェミニズムに関する文章を読むことは重要だと思う。そこで気づいて、省みて、直す。認識することによって社会を良くしていきたい。で、話を『ある協会』に戻すと、この短編を一冊の本にすること自体がメッセージなんです。きっと短編集で読むのと感じ方が違うと思う。

ikm:そうそう。短編集の中の一編だったら、もしかしたらフェミニズムの話と気づかない人もいるかもしれない。フェミニズムの本をリリースし続けているetc.booksが一冊の本としてリリースすれば、それだけで明確なサジェストになる。俺、このリリースのしかたは、EPというか7インチ(レコード)っぽいと思うんですよ(笑)。7インチ大好きでついつい集めちゃうんですけど、『ある協会』にはそういう「物」としても持ってたくなる魅力もあるよね。

>Riverside Reading Clubが小岩のライブハウスでおしゃべり【後編】はこちら

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