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「浮世絵の解剖図鑑」 江戸の公衆便所は宝物庫!?

牧野健太郎「浮世絵の解剖図鑑」(エクスナレッジ)より

 街中はハロウィンムードでいっぱいですが、実は10月31日は、日本が世界に誇る浮世絵師、葛飾北斎の誕生日。なんでも、浮世絵師の誕生日が日にちまではっきりとわかっているのは珍しいケースで、北斎自身が自作の一つに誕生日を記していることから判明したんだとか。

 そんな北斎の誕生日にちなんで取り上げたいのが、「浮世絵の解剖図鑑」です。本書は、誰もが一度は目にしたことがある北斎の「冨嶽三十六景」や広重の「東海道五十三次」などの浮世絵を通して、江戸の暮らしや文化を覗いてみようというもの。浮世絵の基礎知識をおさえたうえで、江戸の風俗が垣間見られる作品を取り上げ、その見どころを解説してくれます。

 例えば、歌川広景「江戸名所道外尽 廿八 妻恋こみ坂の景」。東京・湯島の妻恋神社の参道にある公衆便所で用を足す侍と、その臭いが強烈なのか、鼻をつまむ人たちが描かれています(ちなみに、このひとコマは『北斎漫画』を模写したものだそう)。

牧野健太郎「浮世絵の解剖図鑑」(エクスナレッジ)より

 美しい桜の風景にトイレシーンを組み合わせてくるあたりに江戸っ子の遊び心を感じつつも、江戸時代から公衆便所があったことに驚かされました。江戸では排泄物は田畑の肥料として重宝されており、排泄物を買い取る「下肥(しもごえ)買い」という商売が繁盛していたとのこと。排泄物は長屋の共同トイレを管理する大家さんにとっても収入源の一つになっていて、そんな“宝物”を集めようと寺社の参道には私設の公衆トイレがあったり、参勤交代の道中には農家がこしらえた臨時トイレがあったりしたんだそうです。

 浮世絵を通じて江戸へのタイムスリップ気分が楽しめる一冊。本書を手がかりに、浮世絵の舞台となった場所を巡ってみるのもおすすめです。