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知念実希人さん「天久鷹央シリーズ」インタビュー  ホームズが女性医師だったら…150万部超えの大ヒット

知念実希人さん=篠田英美撮影

 医療ミステリーの旗手で、本屋大賞に今年で3年連続ノミネートされた作家・知念実希人(みきと)さん(42)の「天久鷹央(あめくたかお)シリーズ」(新潮文庫)が、最新刊『神話の密室』で累計150万部を超えた。2014年の第1作「天久鷹央の推理カルテ」から11作。医師でもある知念さんは「ミステリーと診断学を融合させた、思い入れのある作品。書き続けていく」と決意を新たにしている。

 主人公の天久鷹央は、一見したところ高校生のようにも見える28歳の女性医師。総合病院の統括診断部長を務め、超人的な頭脳で難事件に「診断」を下し、理詰めで解決していく。一方で、他人とのコミュニケーション能力がなく、場の空気を読めず、敬語すら使えない。

 知念さんは、キャラクター造形のきっかけをこう話す。「シャーロック・ホームズのような名探偵を作りたかった。ホームズを女性にして、医師にしてみた」。ホームズの相棒ワトスン役には、鷹央の部下で男性医師の小鳥遊優(たかなしゆう)を配し、このコンビが大活躍する筋立てにした。

 シリーズでは、死の現場から瞬間移動した遺体、4年前に死んだはずの男による連続殺人、人体発火現象、体に痕跡が残らない「魔弾」による死など不可解な事件が次々に発生した。
 最新作ではアルコールがないはずの閉鎖病棟で小説家が泥酔を繰り返す謎、衆人環視のリングで突然死したキックボクサーの謎に挑む。「人間ドラマとしてストーリーに深みを持たせるため、完成度を上げるため、工夫した」と知念さんが語る通り、これまで脇役だった小鳥遊が重要な役回りを演じている。

 作品には難解な医学用語も出てくるが、読みにくくはない。文体は軽やかだ。「僕の売りはスピード感。常に物語を転がして、一気に読ませる文体を心がけている」「小学生も中学生も読んでいる。子どもたちにもしっかり理解できるように書いている」

 中高生からファンレターが届く。「鷹央がかっこいいというものもありますが、この物語を読んで、医師になりたい、ナースになりたいと書いてくれる子もいる。それが、すごくうれしい」と笑顔がこぼれる。

 知念さんの作品群にリアリティーを与えているのが内科医としての経験だ。多くの人をみとってきた。命の現場に身を置いたからこそ、血の通った物語が生まれる。

 現在も週に1日、午前9時から午後6時まで診療にあたる。「患者さんを診ていないと、医師としての意識が薄くなる気がする。医師としての感覚と経験が、医学雑誌や論文を読んだり、製薬会社の人と話したりすることも含めて作品に反映されればいい」
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 「天久鷹央シリーズ」は、子どもの読者が多いからといって侮ってはいけない。魅力的な登場人物、張り巡らされた伏線、相次ぐどんでん返し、説得力ある謎解きは本格ミステリーのそれ。息をのむこと請け合いだ。読書の秋、完全読破に挑むのも一興かも。(文・西秀治 写真・篠田英美)=朝日新聞2020年10月31日掲載

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