「小学8年生」という雑誌が出ていると知り、買ってみた。8年生ってどういうことだろう。まさか小学校で留年? まるでパロディー雑誌のようだが、版元はまさしくあの小学館だ。
子どもの頃は「小学○年生」を読むのが楽しみだった。残念ながら今はほとんどが休刊し、当時のもので残ったのは「小学一年生」のみ。事情はいろいろありそうだけど、社会も暮らしも多様化した今、学年でくくること自体に無理が生じてきたのかもしれない。
小学館のホームページによると「小学8年生」は1年から6年までのすべての小学生が楽しく学べる学習雑誌を目指し創刊したそうだ。8年生としたのは、時計などで見るデジタル数字の8が0から9までのすべての数字に変身するからという理由はややこじつけくさいが、そこは深くつっこむまい。
最新刊の12・1月号は、3Dアートが描けるペンが付録について、大人にも新しい。アクリル素材で形を作り光を当てて固めていくのだが、これって今をときめく3Dプリンターの技術だよね。今の小学生はこんなことも当たり前にやっているのか。
本文は3Dアートの作り方記事に始まり、街にあるトリックアートの紹介やあめ細工作り、新型宇宙船クルードラゴンなど多岐にわたる。QRコードで博物館のVR(仮想現実)ページに誘導し、おうちで博物館鑑賞しようという記事や、菅総理大臣誕生のニュースとそれに対するジャーナリストのコメントまであるのは、かなり高学年向きのように感じられた。低学年も読むからといって目線を下げすぎないところに、子どもへの信頼が感じられる。
一方、マンガはドラえもんと伝記マンガのふたつしかなく、学校生活をネタにした記事もない。わたしが読んでいた頃の記憶と比べると、ややよそよそしい印象を受けたのはそのせいもあるだろうか、単に自分が遠い世代になっただけかもしれないけども。
かつて学年ごとに雑誌があったのは、小学校卒業まではみなだいたい同じ環境で過ごせる時代だったからなのだろう。それが今は小学1年生までになり、その先はバラバラという、そういう時代なのだ。雑誌「小学○年生」が、社会の大海原に漕(こ)ぎ出す前の人生の添え木のようなものであるとしたら、成熟を急がされる子どもたちに、無理は承知のうえで、少しでも長く寄り添ってあげたいという、版元の切なる願いのようなものが「小学8年生」として残ったように思える。たとえそれが撤退戦になるかもしれないとしても、見捨てることは決してしないのである。=朝日新聞2020年11月4日掲載