1. HOME
  2. インタビュー
  3. 崔実さん「pray human」インタビュー 沈黙の時期を乗り越え、4年ぶりの第2作

崔実さん「pray human」インタビュー 沈黙の時期を乗り越え、4年ぶりの第2作

崔実さん

 朝鮮学校を舞台にした青春小説『ジニのパズル』でデビューし、たちまち注目を浴びた在日韓国人3世の作家、崔実(チェシル)さんが、4年の沈黙を破り第2作を発表した。タイトルは『pray human』(講談社)。精神科病院に入院した少女たちの連帯と、魂の再生を描く祈りの物語だ。

 2016年のデビュー作で、いきなり織田作之助賞と芸術選奨文部科学大臣新人賞を射止めた。だが、17年に本作を書き始めると、指定難病の成人スチル病で入院することに。退院したが、小説は書きあぐねた。

 転機は、世界的な「#MeToo」の動きだった。「リスクを背負って声を上げる女性や男性のインタビューを目にして、すごく元気をもらった」。一方で、自身の過去の体験がよみがえり、「なんで自分はまだ誰にも話せていないんだ。なんて弱い人間なんだ」と落ち込んだ。これを乗り越えないと作品は仕上がらない、とも感じたという。

 小説では、17歳のときに精神を病んで入院した〈わたし〉が、10年の沈黙を経て真実を語り始める。あふれる語りと裏腹に、浮かびあがるのは沈黙をめぐるこんな文章だ。〈沈黙がわたしを生かしていた〉〈人が沈黙しているときこそ、最も耳を傾けるべき瞬間なのかもしれないね〉

 声を上げられなくても、自分を責めないで。「守りに入ることは決して悪くないし、誰しもが大声で叫ぶ必要はない。話せるようになる段階は、人それぞれまったくちがうから」。書き終えたいま、そう感じている。(山崎聡)=朝日新聞2020年11月11日掲載