ストレスの99%は人間関係
――記者会見でお疲れのところ、お時間をさいてくださりありがとうございます。唐橋さんは前回の著作から6年ぶりの新刊ですね。久しぶりに本を書こうと思った理由は。
1冊目の『わたしの空気のつくりかた 出すぎず、引きすぎず、現場を輝かせる仕事術』(徳間書店)は、どちらかと言うと私自身のキャラクターに特化した本でした。その時、読者のかたから、いろんなお悩みが届いたんです。「初対面のかたと上手に話をしたいのですが……」「会話が盛り上がらず途切れてしまいます」。いつかお答えしたいな、とずっと思い続けていました。その後、いろいろな分野で活躍するかたとお会いし、ようやく実例も増えてきましたので、失敗談も含めてお伝えしたいな、と思いまして、書くことになりました。
人間関係って本当に難しくて、「ストレスの99%は人間関係だ」って言葉もあるぐらい。私も日々、仕事をしてきて、「こんなひといるの?」ってブッ飛んだひとに会うことも結構あります。会社に勤めているひとからは、「こういう時どうしたら良いの?」っていう悩みもいっぱい頂くんですよ。
この本に記したことは、インタビューや取材の日々を通じて「私目線」で経験したことがすべて書かれています。「そういえばあの本に『こうすると良い』って書いてあったな」って思い出して頂ければと思います。
私が話を聞くときに、いちばん大事にしていることは、相撲やスポーツなどでもよく使われる「心・技・体」ならぬ、「心・疑・態」です。
〇あなたに関心がありますの「心」
〇小さな疑問をおろそかにしない「疑」
〇先入観にとらわれない態勢の「態」
あなたに興味がある、関心があるという「心」の温度は、必ず伝わります。
たとえば、「あなたのことをとても理解しています」と言葉で告げるよりも、相手に真剣に聞いている姿を見て感じてもらうほうが、言葉よりも伝わることがあります。
(本書より)
――序章で書かれていることは、会話のスキル以前に大切なことですね。
私自身、自分からセンターに躍り出たり、ひな壇の芸人さんのようにグイグイと発言したりしていくことが苦手なタイプです。そんな私だからこそ、スキル以前に、「相手の気持ちに寄り添う」「共感する」という「共感力」を大事にしようと思いました。
特に、コロナ禍の今、ご家族に会えなかったり、リモート会議に試行錯誤したり。仕事のやり方も変わって、コミュニケーションの仕方も変わり、お悩みを抱えるかたが多いんですね。そのこともあって、悩むかたに参考になることをお伝えしたいなと思って書きました。
――コロナ禍で、リモート形式での仕事が急激に増えていますよね。取材者としては、回答者の視線の細かな動きを見ながら心情を察知することが極めて難しくなりました。また、沈黙や「間」を恐れるあまり、慌てて次の質問に変えてしまうなど、なかなか慣れないでいます。
そうですよねえ。相手の視線の先もはっきり見えなかったりしますもんね。私が一番リモートで「ああ、つまんないな」と思うのは、たとえば番組の打ち合わせで、誰かがボソッと言った言葉を拾って、そこから話が拡がることがなくなったこと。これまでは結構あったんですよ。冗談でも何でも良いんですけど、「ボソッ」と言うひと言が減ってしまいました。リモートだと、相手にはっきり聞こえるように伝えるじゃないですか。その後の「間」もちょっとあると気になる。話が拡がるタネが減ってしまったと思います。
リモート会議にも使えるリアクション
――そんな時に役立ちそうなヒントが、本書に記されていますね。「リモート会議にも有効なリアクション」という項目で、「ノンバーバル(非言語)・コミュニケーション」という言葉を知りました。詳細は本書を手に取って頂くとして、今みたいな対面インタビューでも役立ちそう。そう思い、じつはさっきから唐橋さんのメソッドを実践しながらお話を伺っているんです。
そうなんですか! いやいや恐縮です。でも、小堺一機さんが一番うまいと思いますね。かつて「ごきげんよう」(フジテレビ系)でゲストに呼んで頂いた時、小堺さん、私の話に対して、2倍ぐらいに目を大きくされて「ええっ!?」って驚いてくださるんです。「あ、この話、興味あります?」みたいな感じで、こちらも喜んで話してしまいました。小堺さんのレベルまでできるか、と言われれば難しいところがあるんですけど。
――章立ては、共感力を生かした「聞き方」「話し方」、共感力を育む「生活習慣」「心の整え方」の4章で、勉強になるトピックばかり。人間観察や情報収集、そして体調管理のメソッドが並びます。さっきは新刊発売、新曲披露という「晴れ舞台」の記者会見。さぞ緊張されたと思うのですが、この本に書かれたことで、唐橋さんは何かを実践されたのですか。
「心を整えるためのルーティン」の項目で記した「丹田に重心をもっていく」を実践しました。身体の重心を下にもっていくイメージなんです。ひとは緊張していると、呼吸が速くなり、早口になりがちです。そうなりそうなときは、おへその下の丹田に力を入れて呼吸する。すると、こころが落ち着いてくるんです。「ちょっと膝を曲げると良い」とも聞きましたので、踏ん張る感じで臨んでいました。
――会見で、カメラのフラッシュを浴びながら唐橋さんは「とても緊張しています」とおっしゃっていて、その時、とても驚いたんです。堂々として、とても緊張しているようには見えなかったので。
今日は、会見の場で歌も歌わなければなりませんでしたから。だから、「そんなに完璧には歌えませんよ」って予防線を張る感じで「緊張しています!」って言っちゃったかも知れません。
実は人見知りで、緊張しやすい
――おお、戦略だったのか。本を拝読し、「意外だな」と感じたのは、本当のご自身は人見知りで、緊張しやすい性格でいらっしゃる、と。「苦手なものも多い」と記されていますね。もう少し詳しく教えてくださいますか。
テレビユー福島のキャスターだった頃、相手に対して心を開けば開くほど、その後、不安に襲われていたんです。それなら、心を開かないほうがラクなのでは、とまで悩んだ時期がありました。ちょっとこう、うーん、打ち解けるのが難しそうな、これは手強いぞというひといますよね。そんなかたにインタビューする時、頑張って試行錯誤したんですけど、取材後に「あれで良かったのかな」と不安に襲われる時期が続いたんです。
――その不安というのは?
お会いした後に、客観的に俯瞰して自分自身を振り返るんですね。そうすると、あの喋り方で、あの「間」で、あの言葉選びで良かったのかな、っていう反省でいっぱいになる。それが不安になって一気に襲ってくるんです。振る舞いの仕方に「これが正しい」「正しくない」など無いと思うんですけど、「相手に対してどういう印象を与えたかな」っていうのがすごく気になってしまうことはありました。
――「このアプローチで良かったのか?」と、自問を重ねる日々。
でも、そんな不安ばっかり抱えていてもしょうがない。お会いする時には、「このひとに興味があって、全部引き出したい!」という気持ちで向き合うということを実践するようになりました。自分の恥ずかしいところも見て頂いたって良い。ボロも全部見せちゃえ。そんな気持ちで接するようになってから、そういうものは無くなっていきました。「あっけらかんと、すぐに開いちゃったほうがラクなんだ」と気付いた。そのほうが人間関係は円滑に進むことが実感できるようになってきたんです。
――福島から東京に来られた時には「訛り」があって、コンプレックスだった、とも会見でおっしゃっていましたね。どう克服されたのですか。
「克服した」というとアレなんですが……。今は逆に「訛り」を武器にすることもあるんです。ちょっと聞きにくい質問があった時、語尾を訛らせると、やわらかく聞ける。そういうのは使わせて頂いています。
――戦略的!
しぜんになっちゃう気がします。聞きにくいことを聞く時。(アナウンサー必携の)「アクセント辞典」を読み通して克服したつもりではありますけども。でも、今でも、「ちゃんと調べないと」って再確認することは多々ありますね。逆にあえて使うこともあります。
「寄り添う」ってどういうこと?
――本のテーマである「共感力」という言葉を意識されるようになったのは、いつ頃だったのでしょうか。
この仕事を始めてから、どこかで感じ続けていたことだとは思うんですね。特に、災害報道に接した頃は余計、意識するようになったかも知れません。新潟の中越地震の時、東京から中継取材に行ったんです。避難所の体育館に行きました。体育館に入った瞬間、避難者のかたから怒鳴られたんです。「俺たちのことを面白がっているだろ!」って。その時、「『寄り添う』ってどういうことなの……」と。新潟と私のふるさと福島は隣県ですから「ほぼ同郷」みたいな意識で向かったのですが、私は完全な「よそ者」でした。その時、疑問がたくさん生まれたんです。あの頃から、「共感力」ということを特に意識するようになったのかも知れません。
――事件や事故、災害報道に接するメディアのひとたちは、「話なんかしたくないひと」に対して取材しなければならない。良心の呵責もある。葛藤に悩みますよね。
そうですよね。(相手にとっては)聞かれたくないことですもんね。その後、生放送などで現場経験を積み、お相手を観察しつつ、同調と共感を意識して使い分けるようにしています。
――唐橋さんは、Twitterのフォロワーが10万人を超えるインフルエンサーでもあります。SNSとの向き合い方は。
テレビを見て、さまざまな指摘をいただくんですが、あまり気にしすぎないようにしています。逆にスタッフも気付かない微妙な変化に気付いてくださると嬉しいですね。最近、歌のために声のレッスンを始めたんですけれども、ニュースを読んだ時、「あ、唐橋さん、何か最近、声に厚みがありません?」って書いてくださったかたがいました。「え、気付いたんですか?」って。ありがたいことだと思います。
――この「好書好日」は、本好きな読者のかたがたに愛されているメディアです。唐橋さんは普段、どんな本を好んで読まれますか。
会津出身だからかな、歴史モノが多いかも知れません。会津藩の藩祖・保科正之が好きなんです。中村彰彦さん、半藤一利さん、それから石ノ森章太郎さんの『マンガ日本の歴史』は全巻持っています。ちょっと疲れた時にはエッセイを読んだり。最近は角田光代さんの旅にまつわる本がとても面白かったです。旅行パンフレットには絶対載らないような場所、時間の過ごしかた、言葉の選びかた……。
――コロナ禍では、旅の本が読みたくなりますよね。
そうですね、しぜんと探していますよね。「旅に出たい!」「でも出られない!」。そんな時、角田さんの本を読んで、旅した気分になりました。
――今日(10月22日取材)は唐橋さんのお誕生日。新刊発売、歌手デビュー、あらためておめでとうございます! ご実家が造り酒屋で、利き酒師の資格もお持ちの唐橋さん、さぞ今夜は美味しいお酒が飲めそう……。
飲みますねえ! 居酒屋に行くたび、福島のお酒を必ずメニューで調べるんです。そして、必ず頼むようにしているんですよ。今日はありがとうございました。美味しいお酒が飲めそうです。