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繁延あづさ「山と獣と肉と皮」 「かなしい」を「おいしい」に転換

 「お肉は何でできてるの?」

 子どもに問われたら、どう答えるだろうか。スーパーに整然と並ぶ肉は、工業製品のよう。写真家の繁延(しげのぶ)あづささんの著書『山と獣と肉と皮』は、山に生きる獣が肉になる過程をつぶさに見つめ、人間が命をいただくことの意味を思索したドキュメントだ。

 繁延さんは東日本大震災をきっかけに、縁もゆかりもない長崎市へ夫、長男、次男とともに移住。その後、長女が生まれる。肉をお裾分けしてくれる猟師のおじさんに「私を連れてって!」とお願いし、猟に同行。わなに掛かった猪(いのしし)は激しく抵抗し、メスの鹿のおなかにはもう一つの命が……。胸が痛くなる描写と写真が続く。

 この“かなしい”を“おいしい”に転換すべく、著者は料理に全身全霊を注ぐ。家族全員に評判がいいという猪のスネ肉のシチューは、レシピ付きで紹介。おなかが鳴った私は罪深い人間か?

 「穢(けが)れ」を考え皮革業を追い、著者の故郷にたどり着くくだりは運命めいたものを感じる。狩猟本の新境地を見た。(吉川一樹)=朝日新聞2020年11月21日掲載