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石川博品「ボクは再生数、ボクは死」 VR世界で繰り広げる大抗争

石川博品著『ボクは再生数、ボクは死』(KADOKAWA・1320円)

 薄給にあえぐ会社員・狩野(かのう)忍、28歳。しかし一度、VR(仮想現実)世界にログインすれば、彼は「世界一カワイイ」美少女シノになる。軽自動車1台分の金額をつぎ込んだアバター(VRにおける自分の分身)をまとい、夜な夜なVR風俗に通うシノ。だが、お気に入りのVR風俗嬢・ツユソラが一晩100万円の超高級店に移籍してしまったことで、シノは彼女と再会する資金を稼ぐため、動画配信を始めることになる……。

 CGやイラストで描画されたキャラクターをアバターとしてYouTubeなど動画投稿サイトで配信を行うバーチャル・ユーチューバーは、キズナアイを筆頭に、すっかりネットに定着した。VR用の美少女アバターを手に入れることを指して「バ美肉」(バーチャル美少女受肉の略)なる言葉も生まれている。

 『ボクは再生数、ボクは死』はそんなVR文化が題材の作品だ。著者・石川博品(ひろし)は、旧ソ連風の全体主義国家で少数民族のお姫様との異文化交流を描いた『耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳』(ファミ通文庫)でデビュー。その後も、人と吸血鬼が共存する世界での夜の恋物語『ヴァンパイア・サマータイム』(同)など、多彩で個性的な作品を発表している。

 そんな著者らしく、本作もなかなかぶっ飛んだ内容。最初は鳴かず飛ばずだったシノだが、配信中のトラブルで人を「射殺」(作中ではアカウントの消滅という形でVRアバターの死が実装されている)したことで人気が爆発。迷惑アバターを殺害して再生数を稼ぐ、異色の人気配信者となっていく。より多くの死と、再生数を。破滅的な速度で加速していくシノの配信は、やがてツユソラをめぐる大抗争へとたどり着く。

 あまたの視聴者が見守る中、無数のアバターが生死を賭けて戦い、膨大な「スパチャ」(視聴者が配信者に送金するための機能)が飛び交う狂騒ぶりは、まるで現在のVチューバー文化をそのまま小説にしてしまったようだ。そんなバカ騒ぎの中に、VR世界で生きて、死んで、恋をすることをめぐる思弁性と叙情性が自然と同居しているのも、著者ならではである。

 気に食わないヤツは撃ち殺し、手当たり次第に女を抱く。そんなピカレスクを、VRを舞台に新生させた作品だ。=朝日新聞2020年11月21日掲載