- Another 2001(綾辻行人、KADOKAWA)
- 眠れる美女(秋吉理香子、小学館)
- 煉獄の獅子たち(深町秋生、KADOKAWA)
ミステリー小説の続篇(ぞくへん)を書くというのは、かなり難しいことである。前作と話が続いている以上、その内容にある程度は言及しなければならないけれども、かといって決定的なネタばらしはしてはならない――という匙(さじ)加減は、手練の作家にとっても悩むところに違いない。
綾辻行人『Another 2001』は、『Another』『Another エピソードS』と続いてきたホラーミステリーの人気シリーズの第三弾。数年おきに、クラスに生者と見分けがつかない「死者」が紛れ込み、関係者が次々と不慮の死を遂げるという「災厄」に見舞われる夜見山北中学三年三組。前二作の出来事から三年後、三年三組に進級した比良塚想(ひらつかそう)少年は、前回の「災厄」を生き延びた見崎鳴(みさきめい)の知恵を借りつつ、「災厄」への対策を練ろうとするが……。「死者」探しがメインだった第一作に対し、今回は読者がわかっていることを登場人物が誰もわかっていない展開にすることで、従来の綾辻作品とは異質なサスペンスを醸成することに成功している。還暦を控えての新境地への挑戦に要注目である。
秋吉理香子『眠れる美女』は、あるバレエ団で続発する悲劇を描いた『ジゼル』の続篇。前作から一年後、名称も新たに再出発したバレエ団でまたしても連続殺人が起きる。通常、同じ団体で全く別の事件が起きるという展開はご都合主義になりがちなものだが、前作の主要人物が後景に退いた代わり、前作で目立たない端役だった人物がメインに抜擢(ばってき)され、また個性的な新キャラクターを投入することで、人間関係を攪拌(かくはん)し、新たな犯罪の萌芽(ほうが)を自然に演出している。
後日譚(たん)が難しいなら前日譚を書くという手もある。深町秋生『煉獄(れんごく)の獅子たち』は、ある使命を秘めて暴力団員になりすました刑事が主人公の『ヘルドッグス 地獄の犬たち』と登場人物・組織の多くが共通しているが、時系列ではこちらが先となる。関東最大の暴力団の血で血を洗う跡目争いの顛末(てんまつ)を、会長の息子の護衛を務める男と警視庁組対四課の刑事という二人の主人公の視点で描いており、著者らしい破滅的な情念と大迫力のヴァイオレンスを堪能できる。本書だけでも独立した作品として読めるが、前作のストーリーの裏にはこういう出来事があった……という発見もあるので、二冊合わせて読むことをお薦めする。
評判が高かった前作と比較されるリスクを恐れず、後日譚や前日譚に敢(あ)えて挑んだ作家たちの姿勢からは、創作に伴う困難さと厳しさが滲(にじ)み出てくるかのようである。=朝日新聞2020年11月25日掲載