1. HOME
  2. トピック
  3. 奇人・蓑虫山人の生涯を解き明かす 「縄文ZINE」望月昭秀さん「蓑虫放浪」

奇人・蓑虫山人の生涯を解き明かす 「縄文ZINE」望月昭秀さん「蓑虫放浪」

蓑虫山人の絵日記から。中央でずきんをかぶっているのが蓑虫山人=田附勝氏撮影

 考古学がよほど好きな人以外、この人の名を聞いて、ぴんと来る人はいないのではないか。

 蓑虫山人(みのむしさんじん)(1836~1900)――。美濃(現在の岐阜県)の豪農の子として生まれたが、14歳で家を出て全国を放浪。洒脱(しゃだつ)な画風の作品を各地に数多く残す。

 古物趣味があって、有名な「遮光器土偶(しゃこうきどぐう)」(重要文化財)を出土したことで知られる青森県の亀ケ岡遺跡を発掘し、学会誌に報告された。

 「蓑虫」の号の由来は、蓑に擬した笈(おい)(修験者などが仏像や経文などを入れた、足つきの箱)を背負って旅をしていたことから。

 平野国臣をはじめとする幕末の志士らともつきあいが深く、昭憲皇太后(明治天皇のきさき)に拝謁(はいえつ)したこともあるという。

 『蓑虫放浪』(国書刊行会)は、そんな奇人の生涯を追いかける。著者はニルソンデザイン事務所代表で、縄文についてゆる~く語るのが売りのフリーペーパー「縄文ZINE」の編集責任者でもある望月昭秀さん。

 希代の「縄文好き」だからこそのテーマ設定ともいえるが、「ホラふき」と言われ、自身が語ったこともどこまで本当かわからないとされてきた、蓑虫山人の生涯を、複数の記録をつきあわせ、じわじわ解き明かしていく筆致は、ルポルタージュとしても秀逸。特に、亀ケ岡遺跡の遮光器土偶を掘り出したのは蓑虫山人の可能性がある、との記述には驚かされた。

 田附勝さんの写真もさえわたる、おしゃれで、読み応えのある一冊である。(編集委員・宮代栄一)=朝日新聞2020年12月2日掲載