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愛すべきちゃんちゃんこ 澤田瞳子

 先日、日本ペンクラブ主催のオンラインイベントでお話しをした。今野敏先生、小林エリカ先生、それに私が各仕事場から自著について語るというものだ。

 私は夏は暑がり、冬は寒がりという厄介な体質で、この季節、袖なしちゃんちゃんこや半纏(はんてん)を羽織って仕事をしている。オンラインイベントといっても、カメラの画角の関係で、写るのは首から上のみ。ならばちゃんちゃんこを着たままでもバレはすまい――と思ったのが甘かった。

 イベント終盤、司会の松本侑子先生が、「澤田先生の後ろにはいっぱい本が見えますねえ。一、二冊、どんな本かご紹介いただけますか」と仰(おっしゃ)ったのだ。

 自分の格好も忘れて立ち上がり、本を手に戻ってくると、画面の中が騒がしい。

 「先生、何を着ていらっしゃるんです? ちゃんちゃんこ?」

 昨今は上半身スーツ、下半身パジャマでオンライン会議に出る方も多いと聞くが、私は下半身どころか上半身からアットホームな姿を暴露したわけだ。視聴者の方々が後日SNSやメールで、「ちゃんちゃんこ可愛かったです」と言ってくださったのがまた、恥ずかしさに拍車をかけた。

 実は私は大学時代、厳寒の湖北で行われたサークルの冬合宿にも半纏を持ち込み、後輩たちを驚かせた。なにせ我が家の防寒具はいずれも、和裁師だった大正生まれの大叔母の手作りで、市販品より綿が厚く、防寒能力が抜群だからだ。

 大学の頃に着ていた半纏はピンク色で、大叔母が誰かからもらった着物をほどいて作ったもの。今回、披露してしまったそれは、私の叔母の昔の着物の仕立て直しで、米寿を越えてもなお元気な彼女らしい粋な柄。そう思うと砕けた姿がお恥ずかしい一方で、長い歴史を経て私の元に来たちゃんちゃんこに対しては、もう少し自信を持っていいのかもしれない。そんなことを考えながら、今日もわたしはちゃんちゃんこを着て、この原稿を書いている。=朝日新聞2020年12月23日掲載