新型コロナウイルスで一変した世界で、どう過ごし何を感じたかを記した書籍の出版が相次ぐなか、全土でロックダウン(都市封鎖)の措置がとられたイタリアの若者の声を集めた『デカメロン2020』(方丈社)が、クラウドファンディングで出版された。約270人が支援した。約2カ月に及ぶ外出禁止で日常が失われた戸惑いや、それでも何とか気持ちを整えようと工夫する日々が、文や写真、絵で表現されている。
企画・翻訳した内田洋子さんは、イタリア在住のジャーナリスト。日本に帰国中にイタリアでコロナの感染が深刻になり、今も日本で仕事を続けている。「時代を切り取った貴重な資料。後々、演劇などの創作に昇華させてもらえれば」と語る。
イタリアのベネチアは、中世に欧州でペストが流行した際に、「隔離」が生まれたとされる都市。昨年3月、ロックダウンという中世以来の事態を前に、「市井の人々の声を拾って記録にとどめなければと、使命感さえ感じた」という。10~20代の大学生や社会人ら24人に呼びかけて、毎日、現地からの情報を送ってもらった。当時はウェブで発信していたものを本にまとめた。「デカメロン」は、ペスト禍に生まれた名作にちなんだタイトルだ。
雑誌を模した装丁と編集で、写真や絵もふんだんに盛り込まれている。閑散とした広場やスーパーの一方で、「必要なら持っていって」と道路脇に置かれた缶詰の写真などが非常時の暮らしの諸相を伝えている。(久田貴志子)=朝日新聞2021年1月6日掲載