マンガファンにとって至福の時、お正月休みを過ごしました。恒例のごとく、一番信用できるマンガランキングが載った文化誌「フリースタイル」の特集「THE BEST MANGA 2021 このマンガを読め!」を開いて、このベスト20に入ったマンガで自分の知らないものがあれば即座に買い、また、好きな批評家のおすすめ作品も手元に揃(そろ)えて、マンガ三昧(ざんまい)の年末年始でした。
今回のベスト5をご紹介します。
(1)近藤ようこ『高丘親王航海記』(原作・澁澤龍彦)
(2)田島列島『水は海に向かって流れる』
(3)平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』
(4)和山やま『カラオケ行こ!』
(5)ダヴィッド・プリュドム『レベティコ 雑草の歌』(訳・原正人)
今回も、どれひとつとして似たところのない、独創的な個性の開花ばかりです。この自由で多彩な表現のありかたに心がわくわくしてきます。
(1)は澁澤龍彦の遺作となった小説のマンガ化で、近藤ようこの淡泊なタッチが澁澤の風通しのいい文体にぴったりと合って、古今無比の幻想世界をみごとに絵にしています。人間も幻獣も異国の風物も分けへだてなく溶けあって、永遠の常夏を行くような極上の異界旅行へと誘われます。
(2)は前年のランキングでも2位になった作品の完結編。少年から老人まで、人情の機微を描きだす家族ドラマとしてじつに細やかな出来ばえですが、最終巻では、ここ十数年で最も美しい恋の物語として結実しました。ラスト3頁(ページ)を見てから第1巻冒頭に戻ると、その感動はさらにぐんと深まります。
(3)は知らないマンガでした。こういう発見があるからランキングはありがたいのです。家族に虐待されて自殺(?)した女友達の遺骨を盗んで、海を見せに連れて行ってやるヒロイン。滅茶苦茶(めちゃくちゃ)な話ですが、深作欣二に映画化してほしいと思うほど、絵に切迫した力があります。私は痺(しび)れました。
(4)前年ベストワンになった『夢中さ、きみに。』の作者の新境地。カラオケ大会で負けると親分から刺青(いれずみ)されてしまうので、ヤクザが中学生の合唱部長から歌の指南を受けるという話。下手すれば単なるアイデア一発ですが、この作者にかかるとしみじみじんわりと面白いギャグマンガになるのです。
(5)フランス人作家が描く、第2次大戦直前のギリシャにおけるミュージシャンの受難と冒険と魂の歌。ともかくオールカラーの絵の素晴らしさに圧倒されます。残念ながらモノクロの日本マンガには達成不可能な世界です。=朝日新聞2021年1月13日掲載