ゾクッとした魅力のある子に
――試写を拝見して、映画の原作となった島本理生さんの『ファーストラヴ』に含まれている多くの要素を、ギュっと圧縮した映画になっているなと感じました。芳根さんは原作を読んでいかがでしたか。
私は脚本を読んでから原作を読ませてもらったのですが、ワクワクしながら読んだので、あっという間に読み終わったくらいおもしろかったです。自分が演じる環菜を中心に読み進めていったのですけど、ああいう結末なのにちょっとスッとするこの不思議さって何だろうと考えたんです。
試写を観て思ったのは「人に関心が持たれない孤独ほど、切ないものはないな」ということでした。真壁先生を始め、みんなが環菜の言動に振り回されるんですけど「みんなあなたのことを見ているよ。大丈夫だよ」って声をかけたくなるような気持ちになりました。この作品の主人公は真壁先生ですが、ちゃんと物語の柱として環菜がいる作品になればいいなと思ったので、そこはすごくプレッシャーを感じながら読みました。
――周囲の人たちを翻弄する「聖山環菜」という女性をどんな人物ととらえたのでしょうか。
いくら考えても、環菜のことが本当に分からなかったです。もし環菜が親からの愛情をもらっていたらどういう子になっていたんだろうなとも考えたのですが、それも分からなくて、演じていてもやっぱり彼女の事が分からなくて。でも、その「分からない」にみんなが翻弄されていくわけだから、その感情って多分正しいんだろうなと思いました。環菜がどういう存在なのかによってこの作品の色が決まると思っていましたし、堤(幸彦)監督とは「環菜はちょっとした違和感とゾクッとした魅力のある子に」というお話をずっとしていたので、何度も相談しながら道をしっかり作って、役に臨みました。
――脚本から環菜をつかむ手掛かりになったシーンやセリフはありましたか?
まずは環菜の素の部分というか、本当の環菜の感情が描かれているシーンはどこだろうと探して、そこから逆算するような感じでした。「前のシーンではこうだったけど、次のシーンではこうだった」というように、1シーンごとに環菜の感情の差がすごくあって、手に負えないんです。「真壁先生たちをいっぱいいっぱいにさせたい」という思いで挑みました。
北川さんが困ってくれれば
――多くの傷を溜めてきた環菜を見ていると、こちらも本当に辛くて。この役を受けるには、相当の覚悟がいったのでは?
私は今回のお話を頂いて脚本を読んだ時、一番に「やったー!」と思ったんです。キャストの方々も素敵だし、堤監督の作品でこんな重要な役をやれるんだ!と思ったんですけど、原作を読んだ時はちょっと現実的になって「そうか、この役を自分がやるのか」と不安になったこともありました。
それでも、環菜の役をくださったことが嬉しかったです。この役が自分に来たということは、少なくとも何人かの人が、私が環菜をできると思ってくれたからだと思って、それが救いでしたし「やれる、やれない」は置いておいて、やらないという選択肢がなかったです。もちろん環菜を演じることは辛いだろうなと想像はしていたし、演じてみたら想像以上に辛くて。でも辛いと思うのは、それほど心が動かされたからなんですよね。
――環菜を演じることは、ご自身を侵食してしまうほどのパワーと闇があって、飲み込まれていくような感覚があったそうですね。プライベートで役を引きずることはありませんでしたか?
今回は過去一番、引きずりました。普段は撮影が終わったら母と外食したりお出かけしたり、気分転換をして「終える」という感覚があるんですけど、今回は何をしてもずっと環菜が入っていて。映画では、環菜は前に進めているけど、私の方が置いてけぼりになっているような感じでした。それをぶつけるところもなくて、しばらくはそういう状態でしたね。
お芝居をしていると、環菜の気持ちがすごくあふれてくるんです。自分はちゃんと自分としてここにいるのに、心だけ環菜に持っていかれる感覚がありました。人って、生きている中での浮き沈みってみんなあるじゃないですか。この作品の撮影中は、割と沈んでいる時だったんですよね。自分自身が少し落ちている時に、環菜と何かが重なったのかもしれません。そうじゃないとあんなに勝手に涙が出てこないなと思いました。
――北川さん演じる真壁先生との面会を重ねるうちに、環菜の心も変化していきますが、共演シーンについてお二人で相談したことはありましたか。
北川さんと共演するのが今作で5年ぶり、2回目だったのですが、最初にご挨拶したくらいで、撮影中は役や作品について話すことはなかったです。役柄の関係じゃないけど、ずっとその距離感は保っていました。「ちゃんと経験を積んできたんだな」と北川さんに思ってもらいたかったんです。環菜は真壁先生を翻弄する役、というはもちろん大前提としてあって、さらに「北川さんがちょっと困ってくれればいいな」という気持ちは個人的にありました。
自分で自分が分からない苦しさ
――環菜が真壁先生と初めて面会した後に書いた手紙の中で「私をちゃんと罪悪感がある人間にしてください」という一文が印象的でした。芳根さんはあの言葉に環菜のどんな思いがあったと思いますか。
それが環菜の素直な心だったんじゃないかと思います。そうじゃないと、真壁先生と面会しようともしないだろうし。自分でも自分が分からないってすごく苦しいと思うんですよ。環菜は子供の時から親にちゃんと愛情をもらえなかったけど、真壁先生と出会ったことで、何か少し光を感じたんじゃないかな。そう思うと、あれは嘘偽りのない環菜の純粋な気持ちだったと思います。
――二人が対峙する最後の面会室での場面は、この映画を観た人の記憶に残る、忘れられないシーンになっているなと感じました。
最後の面会室でのシーンは、できるかどうかすごくドキドキしていたんですけど、北川さんを前にしたらもう涙があふれ出ていました。あのシーンでは、本当に涙が出るとは思っていなかったんです。でもカットがかかってふと手元を見たら、そこに水たまりができちゃうくらい泣いていて「私、こんなに泣いたの?」と気づいたくらい。
元々台本には環菜が泣くシーンはそんなになかったんですけど、現場に行くと自分も予想していなかった涙が出たことが何度もありました。初めはすごく頭を使って、色々考えて「こういう環菜にしていく」と決めたけど、いざ現場に入ったらあふれてくる感情を止められなかったので、自分が思うように、自分の心が動くように環菜を演じてみようと思いました。
お芝居というよりも自分のリアルな感情を引き出せてもらったので、北川さんとでなければあのシーンにはならなかったと思います。もしかしたら、真壁先生と環菜というよりも、北川さんと芳根京子という瞬間が一瞬あったんじゃないかなって思うような、不思議な感じがしていました。
――あのシーンは、北川さんと芳根さんの女優としてのぶつかり合いだったのですね! 作中はセンシティブなシーンもあって、途中で目をそむけたくなりそうなこともありましたが、自分で見ないようにしてきたものを、他人に探られ、暴かれるというのはとても怖いことだと思います。芳根さんは演じていて、いかがでしたか?
北川さんのお人柄もあると思うのですが、私の心の中全てを見られている気がしたんです。実際に「芳根ちゃんってこうでしょ」って北川さんに見破られたことがあって、その時の私はそういう風に言ってもらえたことですごく救われたんです。
だけど環菜からすれば、それがすごく怖いことなんですよね。私は自分のことを知ってもらえて嬉しかったけど、環菜は知られたくないという怖さがある。そのギャップがすごく面白かったです。これまでの育った環境や状況とかももちろんあるけど、どう思うのかは紙一重なんだなって。
映画でも、真壁先生は環菜のことを怖いと思ったかもしれないけど、環菜も真壁先生が怖かった。それが前半では、真壁先生をおちょくるような環菜の態度に出ているし、逆に後半では、真壁先生から目線をそらすようになるのですが、目を見るのが怖いから環菜は色んな表情をして、きっとそれで自分をごまかしているのだと思いました。
「鬼滅の刃」で漫画にハマった
――「好書好日」はブックサイトなので、ぜひ芳根さんの読書ライフについてもお聞きしたいです。普段はどんな本を読みますか?
私はこの仕事を始めるまで、映画もドラマも本も、全く親しんでこなかったんです。今も楽しさとして読むというよりは、自分が携わらせていただく作品の原作を読むくらいで、勉強として読むことが多いですね。でも、自粛期間中に『鬼滅の刃』を読んで、初めて漫画にハマりました。友達に「漫画を貸してください」って言ったことも初めてだったので、その子もビックリしていましたが「ついにハマったか!」って、喜んで貸してくれました(笑)。映画も一緒に観に行ったんですけど、初めて「漫画ってこんなに楽しくておもしろいんだ」ということに気づけた2020年でした(笑)。
――特にどんなところにハマったのですか?
私、かわいい女の子が好きで、テレビに出ている方や街でかわいい女の子を見つけるとすぐ目で追っちゃうんです。『鬼滅の刃』も、出てくるキャラクターの女の子たちがかわいいんですよね。ちょっとグロいところもあって「うっ」って思う時もあるけど、それが中和されるキャラクターの魅力にハマりました。