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応仁の乱が現代に問うもの 天野純希「乱都」など末國善己さん注目の歴史・時代小説3冊

  • 乱都(天野純希、文芸春秋)
  • 阿修羅草紙(武内涼、新潮社)
  • 血と炎の京―私本・応仁の乱―(文春文庫)

 歴史時代小説は、応仁の乱が起こるなどした室町時代中期を取り上げることが少なかった。ところが二〇二〇年の終わり頃から、応仁の乱前後を描く作品が続々と刊行されている。今回は、その中から傑作をセレクトした。

 天野純希『乱都』は、応仁の乱に繫(つな)がる文正の政変から室町幕府滅亡までをたどる連作短編集である。随所に掌編の「幕間(まくあい)」が挟まれ、その主人公が誰かという謎も物語を牽引(けんいん)している。

 母を侮辱された怨念から相続争いに打って出る畠山義就。前将軍の要請を受け京を目指す大内義興。織田信長の武力で将軍になり、京で武士として覚醒する足利義昭。このように本書の主人公たちは、政治の中心地・京が象徴する権力の“魔”に魅入られており、権力を追い求めて破滅したり、それを放棄して平穏を得たりする。この展開は、どのような人生を選ぶのがベストなのかを突き付けているのである。

 忍者による迫真のバトルが連続する武内涼『阿修羅草紙』は、女忍者を主人公に応仁の乱前夜を描いている。

 比叡山延暦寺の忍者・八瀬衆の若き女忍者すがるは、寺から盗まれた阿修羅草紙など三つの秘宝の奪還を命じられた。事件の背後には幕府重鎮の山名宗全、伊勢貞親の姿が見え隠れし、秘宝を追うすがるの前には、三方鬼、毒姫ら凄腕(すごうで)の忍者が立ちはだかる。

 忍者という下からの目線で歴史を捉えているので、権力争いに明け暮れ飢饉(ききん)や疫病に苦しむ民など歯牙(しが)にもかけない為政者が活写されていく。この状況が現代を想起させるだけに、闘いの先にすがるが見つけた理想の国のあり方は、日本を改革するヒントになる。

 一休宗純を主人公にした伝奇小説で早くから室町中期に着目していた朝松健が満を持して発表したのが、応仁の乱を背景にした『血と炎の京(みやこ)』だ。

 西軍の山名宗全に故郷を焼かれた男は、東軍の細川勝元に救われた。武術の腕が認められ勝元に道賢の名をもらった男は、自ら骨皮なる姓を付ける。

 精鋭の足軽部隊に入った道賢が、敵の城に侵入して兵糧を焼くなど困難な任務に挑む本書は、戦争アクション小説といえる。ただ社会の底辺で生きる道賢が、権力欲に憑(つ)かれた為政者の欺瞞(ぎまん)を暴くので、爽快感ではなくダークな雰囲気に圧倒されるのではないか。

 前線で新兵器が使われるのを見た道賢は、権力者のエゴが戦乱を起こし、それに巻き込まれた庶民が犠牲になる現実を痛感する。戦争が起こる普遍的なメカニズムや、大量破壊兵器の開発が続く理由を活写しながら進む本書は、戦争を止めるべく動いた道賢の想(おも)いを、現代人はどのように受け止めるべきかを問い掛けているのである。=朝日新聞2021年1月27日掲載