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「大切な人は今もそこにいる」「飯舘村からの挑戦」 当時を思い 今を考え直す糸口に 朝日新聞書評から

評者: 黒沢大陸 / 朝⽇新聞掲載:2021年01月30日
大切な人は今もそこにいる ひびきあう賢治と東日本大震災 (世界をカエル) 著者:千葉望 出版社:理論社 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784652204030
発売⽇: 2020/11/20
サイズ: 19cm/183p

陸前高田と東京、妹・トシの死にまつわる宮澤賢治の作品が、3月11日とひびきあう−。東日本大震災から10年、大災害時代の死について考え、伝えたいことを綴る。【「TRC MA…

飯舘村からの挑戦 自然との共生をめざして (ちくま新書) 著者:田尾 陽一 出版社:筑摩書房 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784480073631
発売⽇: 2020/12/09
サイズ: 18cm/318p

ボランティアと研究者を結集して「ふくしま再生の会」を結成し、飯舘村で自然と人間の共生を訴える著者が、これまでの活動を振り返り、ポストコロナの時代に不可欠な、自然との共生理…

大切な人は今もそこにいる ひびきあう賢治と東日本大震災 [著]千葉望 [イラスト]マット和子/飯舘村からの挑戦 自然との共生をめざして [著]田尾陽一

 新型コロナで再び緊急事態宣言が出ている。しかし、初回ほどの緊迫感はない。この既視感。東日本大震災と東京電力の原発事故から時を経るにつれて緊張感が薄れた情景と重なる。
 最近出版された震災関連の2冊は、当時を思いだし、10年をたどり、今を考え直す糸口となる。
 『大切な人は今もそこにいる』の著者は、東京の自宅で震災に遭遇、実家である岩手県陸前高田市の寺を案ずる。強い揺れ、中継される津波、ネットに飛び交う様々な情報。自分の大切な人の消息がつかめないという恐怖心を抱く。その体験や人々に寄せる思いは、当時を思い出させる。あの頃、多くの人々が互いに思いやり、節電も真剣に心がけていた。
 著者は被災した人々とふれあい、言葉に耳を傾ける。壮絶な体験の有無で、思いを分かち合えない、立ち入れない領域もあると考える。幼い頃からの知り合いも亡くした姪(めい)、朝たまたまけんかして口をきかぬままの相手に死なれた人。震災での死の受け止めや宮沢賢治の詩、かつて自分が見送った人々への思いを重ね、「懐かしい人は、いつも彼らを愛した人のそばにいる」と結ぶ。
 今も少なからぬ人が平時とは異なる死と向き合っている。
 震災当時、多くの人がエネルギー政策や生活を見直すべきだと考えていただろう。コロナ禍の変容で、従来の価値観は維持されるのか、本質的に変わるのか。
 『飯舘村からの挑戦』は、高エネルギー物理学を学んだ著者が、ボランティアや研究者らと「ふくしま再生の会」をつくり、放射線の測定や農林畜産業の再生、生活と地域社会の再生に取り組んできた歩みをつづる。
 自然をコントロールできるとは考えず、人間も「自然に内包されている存在であり、自然と共生している」との主張は共感できる。自然との関わり方を誤ると、手ひどい報復を受ける。野生動物が起源のウイルスも同様だ。
 未経験の事故で「本当の専門家は皆無」。しかし、本書で紹介されるような測定や除染などの試みで少しずつでも前に進める。次々に困難が起きても黙って対策を立てる住民。こうした努力に為政者も都会で暮らす者も甘えてきたのではないか。長年の原子力政策の結果である事故は、政府や東電、専門家、業界、メディアらによる「集団的・犯罪的人災」。そして、多くの国民の容認があって、従来の延長政策が続く。著者は、今後も経済成長や科学技術振興が「錦の御旗」でよいのか問う。
 震災も原発事故も10年は区切りではなく、長い道のりの通過点。あのとき出た原子力緊急事態宣言は、いまも解除されていない。
    ◇
ちば・のぞみ 岩手県生まれ。ノンフィクション・ライター。著書に『実践する!仏教』など▽たお・よういち 1941年、神奈川県生まれ。「ふくしま再生の会」理事長。IT企業経営などを経て、福島県飯舘村に移住。

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