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木崎みつ子さん「コンジュジ」インタビュー 性虐待、書けなかった4年間

デビュー作『コンジュジ』を出した木崎みつ子さん=冨永智子氏撮影

 大阪出身の作家、木崎みつ子さん(30)の芥川賞候補になったデビュー作『コンジュジ』(集英社)が刊行された。性虐待をテーマに選んだが、「安易に取り上げていないか」と自問を繰り返すこと4年間。「小説で何かを変えられるとは思いませんが、傍観者ではいたくなかった」と、5年をかけて書き上げた一冊だ。

 大学卒業後、書店員などの仕事をしながら、短編小説を書いていた木崎さん。性虐待の事件報道に触れるうちに、被害者の手記を読むようになったという。

 「誰にも相談できずにいる被害者の存在を知り、自分の中で、何か突き動かされるものがありました」

 2015年初春、初めての中編のテーマにすると決めて、書き出した。

 〈せれながリアンに恋をしたのは、もう二十年も前のことだ……〉

 だが、そこで筆が止まった。書くことで誰かの尊厳を再び傷つけてしまわないか? 読み手の関心を引きたくて、このテーマを選んだのでは? 堂々巡りの自問は尽きず、「4年間、それ以上1行も書けませんでした」。

 ウェブサイトの記事の校正の仕事をしながら、「自尊心をすり減らす生活」が5年目を迎えた時、「最後まで書けなくてもいい」と開き直ると、ようやく物語が動き始めた。

 主人公せれなが小学生のころ、実の母親が家を出て行き、「新しいお母さん」も去って行った。残された父親は娘を支配し、やがて「妻」のように振る舞うことを強いるようになる。

 逃げ場のないアパートの一室で、せれなは早世した英ロックスターのリアンを空想の恋人にして、「世界ツアー」の旅へ。過酷な現実と空想とを行き来し、虚実の境目が溶け合う世界で生をつなぐ女性の半生が描かれる。

 たまたま耳にして響きにひかれ、タイトルに決めた「コンジュジ」は、ポルトガル語で「配偶者」という意味。書き始めた当初は「主人公がやがて現実の男性と出会って、結婚する結末を考えていました」。

 だが、5年をかけて書き上げてみると、主人公が結婚によらない、ある種の「連帯」にささやかな安らぎを見つける物語になった。いまはタイトルに「寄り添う人」という意味を込めている。

 昨年のすばる文学賞に選ばれ、選考委員の作家川上未映子さんから「サバイブの果てに辿(たど)り着く、こんなに悲しく美しいラストシーンをわたしは他に知らない」と評された。

 「性被害の当事者と同じ目線に立てたとは思いません。この書き方でよかったのか、いまも考えています。せめて読んだ方に、現実に起きていることに関心を持ってもらえたら」

 加害者の視点に立ったら、性被害の現実はどう見えるのか。そんな次作の構想を温めている。(上原佳久)=朝日新聞2021年2月3日掲載

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