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BL担当書店員がセレクト!「映像化もされたおすすめBL」

「だべ?」と笑顔がイイ! 穏やかに進む、田舎町の恋物語(井上將利)

 最近はBL作品の映像化も増えてきましたね。アニメ化だけでなくドラマや映画として実写化される作品もしばしば。そこで今回は映像化された作品をテーマに、2020年9月に実写映画されたココミさんの「リスタートはただいまのあとで」(プランタン出版)をご紹介します!

 タイトルの「リスタート」「ただいま」という言葉にもあるように、本作はある若者たちの帰郷をきっかけに、そこでの新たな出会いと歩みを描いた物語です。

 高校から上京し社会人となっていた狐塚光臣(こづか みつおみ)は、仕事でのトラブルをきっかけに会社を辞め、10年ぶりに故郷の田舎町に帰郷。そこで同い年の見知らぬ青年、熊井大和と出会います。大和は身寄りがなく施設で育ち、高校生からこの村の農家の養子となり生活していました。お互い初対面でしたが、大和が光臣にやたらと話しかけ、何だかんだと畑の手伝いや配達に光臣を連れまわすのでした。

 人当たりのよい大和は10年のうちにすっかり町に馴染んでいて、自分の方が部外者のように感じる光臣。さらに光臣は実家の仏具屋を継ぐと決心したものの、父親から認めてもらえず落ち込みますが、そんな彼を大和は何気なく連れ出し、慰めてくれるのでした。

 光臣:…お前は優しいな。
 大和:光臣も優しいよ。いつも俺の隣にいてくれる。だべ?

 という2人の会話は、特に大和の優しさが感じられて好きなシーン。「だべ?」って言ってニコってするのがイイんですよ(笑)!

©️ココミ/プランタン出版

 その後も何かと一緒に過ごしていく2人ですが、光臣は大和と過ごす居心地のよさの中に別の感情が芽生えていることを自覚するのでした。感情表現がまっすぐな光臣は、ある日、眠っている大和にキスをします……。唐突で、衝動的なようで、大和への気持ちを素直に表した光臣らしい行動だなと思います。「好き」という気持ちを確信してからは大和との日常でさえドキドキするようになる光臣ですが、だからこそ見える大和の心の壁に気付きます。何事にも正直で感情を隠さない光臣に対して、いつもニコニコしている大和はどこか本心を隠している雰囲気を持っていて……。

 本作は田舎町を舞台にゆっくり進んでいく2人の恋の物語。畑仕事にご近所付き合いに、都会ではあまり馴染みのない田舎コミュニティが随所に描かれていて、日常の風景が穏やかにゆったりと進んでいきます。

 また、映画では光臣と大和の出会い方が違うなど、所々オリジナルの設定があり、そこもまた楽しめます。2人や周りの大人たちもとても自然に表現されていて原作の世界がそのまま現実になったような映画です!

 原作コミックと映画、どちらも楽しんで頂ければ嬉しいです。

もがきながらも前に進んでいく若者たちの姿がカッコイイ!(キヅイタラ・フダンシー)

 BL作品もここ数年で一気に実写ドラマやアニメ、さらには映画化など、クロスメディアな展開が増えましたよね! 原作はもちろん、メディア化でさらに楽しめるようになるのが嬉しい限り♪ 今回は、こちらの作品をピックアップして語りたいと思います!

 キヅナツキさん「ギヴン」(新書館)

 すでに6巻まで発売されている、言わずと知れた大人気シリーズです。バンド活動をしている高校生・上ノ山が出会ったのは、隣のクラスの真冬。真冬が大事そうに抱えていたギターは弦が切れていて、ぶっきらぼうながらも優しい上ノ山は直してあげます。弦を張り替えたギターを“ジャーン”とかき鳴らした瞬間、真冬の心と上ノ山の世界は動き出すのでした。

 音楽自体がド素人な真冬に、押し切られる形でギターを教えることになった上ノ山。指導中に偶然耳にした真冬の歌声に衝撃を受け、自分の所属するバンドに勧誘するも何故か断られ……。

 自分を表現することが苦手な真冬ですが、彼をさらに縛っていたのは、幼馴染で恋人だった人を亡くしているという重い過去。大事に抱えていたギターは彼の形見だったのです。ほわほわとした雰囲気を出しつつも、高校生にしてこんなに悲しいことを背負っているなんて胸が苦しい……。

 「表現するのがヘタ? 俺がお前を誘ったのはな お前の歌に俺の心が動かされたからだ」

 真冬を救ったのは、感情にまっすぐな上ノ山の、このひと言だったのかもしれません。

「ギヴン」1巻より ©️キヅナツキ/新書館

 こうして真冬が加わったバンドを中心に物語は進んでいきます。上ノ山が自覚してしまった真冬への好きという気持ち。ライブに向けて過去を乗り越えていく真冬。2人の成長をそわそわしながら見守っています……! 他のキャラクターもとても魅力的です。バンドメンバーの梶と春樹の恋模様も複雑に展開していき、登場人物それぞれの心の機微が細やかに描かれているので色んな感情が巻き起こりました。個人的に特に響いたのが、梶の「誰かを好きになるというのは自分の一番皮膚の薄い柔らかい場所を差し出すことでしか成立しない」という言葉。なんかすごくないですか? 皆それぞれもがいて、時に苦しんで、前に進んでいく姿が本当にカッコイイ! アラフォーにしてバンドへの憧れが強くなりました(笑)。

 6巻まで刊行されているので語り切れないのですが、TVアニメを観るとさらに満足度アップでおすすめです! 真冬の歌声、セッションの音、ライブ……。コミックスでも音が聞こえてきそうな描かれ方で想像も膨らみますが、アニメでの音の表現へのこだわりがすごく感じられて衝撃的でした。第9回のライブシーンでは真冬の隠してきた心の叫びが溢れ出す様子がよりダイレクトに伝わってきて思わずジーンときちゃいました。

 まだまだお話は続きそうです。バンドのこれからの活躍や真冬たちの成長を、コミックでもアニメでも、もっと楽しめるといいですね!