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七野ワビせん「ナイトメア・ファミリー」 女詐欺師が虐待児2人連れ帰って

 カルト宗教を信じる倉原美月は、「幸運のお届け物」を騙(だま)し売る女詐欺師。ある屋敷をカモと定めて訪問するが、虐待を受けたかのような子どもを見つけてしまい、つい2人を連れ帰ってしまう。

 寄る辺ない女と子どもが疑似家族を演じる物語だ。著者は、雑然とした室内、質素な食事といった3人の暮らしぶりを描く。レトロかつポップなタッチもあるのだろう。そこに陰惨さはなく、ゆるりとした温かさに溢(あふ)れている。

 美月の訪問先には、体制の恩恵に与(あずか)れない貧しい人や抑圧された人、孤独の中で癒やしを求める人が居る。世間的に言えば、両者は「加害者」「被害者」というレッテルが貼られるようなシリアスな関係なのかもしれない。しかし、ここでの両者は互助的に機能しており、人間の強(したた)かさも、優しさも内包した生々しいドラマが展開していく。

 1巻のラストで、ある悲惨な事件が起きる。衝撃的なシーンを目の当たりにした子どもたちの反応もやるせない。彼らが過去に負ったトラウマは、人格をも軽々と越えてくるものだったのだろうか? ならば、その傷が癒えるまで……と祈らずにはいられない。この世には、さめてほしくない悪夢もあるのだ。=朝日新聞2021年2月20日掲載