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鳥居本幸代「阿闍梨さまの料理番」 心をしずめる、精進料理の世界

 比叡山延暦寺の塔頭(たっちゅう)の一つ、赤山(せきざん)禅院(京都市左京区)近くに居を構え、住職に代々「お仕えする」家に生まれ育った女性の手による『阿闍梨(あじゃり)さまの料理番 もっと知りたい精進料理』。米、麺類、野菜、大豆などの食材の由来と料理法の変遷、伝承が、古事記から浮世絵までの古典や史料を自在に織り交ぜ、軽妙につづられる。

 著者は服飾文化史や京都のしきたりに詳しい鳥居本幸代・京都ノートルダム女子大学名誉教授。研究者でありながらお寺で精進料理を作っている珍しい経歴が生かされ、歴史と料理実務の絶妙なミックスで精進料理の世界に読者をいざなう。例えば平安時代、素麺(そうめん)の原型は病よけのおまじないだったと紹介しつつ源氏物語の若紫の巻に触れる。各章末尾では、お寺で人気のレシピを紹介する。

 不安な日々、食材の一つひとつを大切にしていた時代を知ることでおのずと心がしずまっていく。この先何があっても、このシンプルな暮らしに回帰すればよい、できるはずだと思わせてくれる。(久田貴志子)=朝日新聞2021年2月20日掲載