1. HOME
  2. コラム
  3. 子どもの本棚
  4. 「きたー!」めくるよろこび 「子どもの本棚」オススメ本3冊

「きたー!」めくるよろこび 「子どもの本棚」オススメ本3冊

「でんしゃ くるかな?」

 動物たちと男の子が横一列に並び、キョロキョロしながら待っています。「くるかな? くるかな?」めくると電車がやってきて「きたー!」とみんな大よろこび。まためくると「ばいばーい」と電車を見送ります。
 期待し、実現し、余韻に浸る、うれしさの三拍子。繰り返すほどに高まる登場人物の気持ちが、のびやかな絵と短いせりふから伝わります。絵本のみんなの期待と興奮を、小さい読者も共有します。最後にやってきた黄色い電車に、手をつないで乗り込んで「しゅっぱーつ!」。
 絵本の醍醐(だいご)味、めくるよろこびを、こんな風に体験してしまった赤ちゃんは、もう読むのを止められませんね。読んであげる大人にも、笑顔が伝染するでしょう。(きくちちき作、福音館書店、税抜き800円、0歳から)【絵本評論家・作家 広松由希子さん】

「わたしのあのこ あのこのわたし」

 主人公は、環境も性格も違う小学5年生の2人の少女、秋とモッチ。未婚の母親と暮らす秋が父親からもらった大事なレコードに、ある日モッチの弟がうっかり傷をつけてしまう。2人の少女は仲たがいするが、モッチの弟の発熱を契機にまた仲直りをする。豊かな感受性をもつ子どもたちの、何かをふっと不思議に思う気持ち、意地悪をどうしてもやめられないときの気持ち、仲直りのきっかけがつかめなくてもどかしく思う気持ち、とまどいや迷いなどが、この著者ならではの巧みな描写で表現されている。(岩瀬成子著、PHP研究所、税抜き1400円、小学校高学年から)【翻訳家 さくまゆみこさん】

「オン・ザ・カム・アップ いま、這いあがるとき」

 アフリカ系アメリカ人の女子高校生のブリは、貧困から抜け出すために、ラッパーとして成功することを夢見ている。自身のラップが話題になり始めた矢先、高校の警備員に薬物所持の嫌疑をかけられて暴力を受ける。そのことが学内やネットで広がり、黒人に対する偏見や差別に対して抗議の声が上がるが――。「這(は)いあがれ、もうだれにもとめられない」ではじまるブリのラップからは、彼女の強い決意が感じられ、心の叫びが聞こえてくるようで胸にずしんと響く。(アンジー・トーマス著、服部理佳訳、岩崎書店、税抜き1700円、中学生から)【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】=朝日新聞2021年2月27日掲載