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【東日本大震災10年】鈴木邦弘さん「いぬとふるさと」インタビュー 歩いて感じた福島、絵本に

「家がたおれたまま/静かだな/人がどこかに行っちゃった」。『いぬとふるさと』から=旬報社提供

 イラストレーターの鈴木邦弘さん=埼玉県在住=は、6年前から福島県をのべ250キロ歩いた。おもに東京電力福島第一原発の事故で帰還困難区域が残る富岡、大熊、双葉、浪江町だ。その体験をもとに、絵本『いぬとふるさと』(旬報社)をつくった。

 絵本では、原発事故で埼玉県に避難してきた犬を引き取った「おじさん」が、共に双葉を訪れる様子を犬の視点で描いた。全町民の避難が続く双葉町のJR双葉駅は見違えるように改装され、かつての水田はソーラーパネルで覆われた。

 メガソーラー施設でつくられた電気は、東電に売られる。作中、おじさんは「むかしもいまもぼくらはここの電気を使ってきたんだ」という。夜、あたりを照らすさいたま新都心の電飾と、暗闇の中に広がる双葉町の星空が対比をなす。

「この黒いふくろはなんだろう?/おじさんの持ってるハコがピーピーなってる」。『いぬとふるさと』から=旬報社提供

 原発事故に「負い目」のようなものがある。「福島でつくられた電気を使っていたわけだから、首都圏の全員が当事者意識を持つべきだ。そして、いまも首都圏に電気を送り続けている事実もある」

 2015年、かねて「一回は見ておかなければ」と思っていた福島県を訪れた。歩いたのは、車の運転免許を持っていなかったからだが、歩くことで「復興」の実像がよく見えたという。

 夕方には誰もいなくなる双葉駅。被災した建物の解体が進んだ浪江駅前。「良くいえば復興半ばで、悪くいえば解体半ば。ここに何があったかわからなくしてしまう。とくに僕のように後から来た人にはなかなかわからない。復興イコール忘却、という面がある。残酷です」

 一方、駅前を少し離れると、10年間何も変わらない風景も残る。「人が急にいなくなった痕跡が、あちこちに残る。まだ放射線量の高い場所もある」

 昨年、双葉町に「東日本大震災・原子力災害伝承館」ができた。だが、鈴木さんはいう。「施設はカムフラージュのようにも感じる。かえってそこに閉じ込めてしまってほかのものが見えなくなる。伝承館に行く途中の道ばたを見て欲しいです。全てが解体されてしまう前に」(興野優平)=朝日新聞2021年3月10日掲載