米ニューヨークで生まれ、世界各地で独自に展開してきたヒップホップ。コンプトン(米西海岸)で、ガザ(パレスチナ)で、川崎(日本)で。「街角のジャーナリズム」とも言えるラップは、逆境にある者たちの声なき声を可視化してきた。
モンゴルのシーンがアツいという話は聞いていたが、『ヒップホップ・モンゴリア 韻がつむぐ人類学』を開いてその魅力に圧倒された。著者の島村一平さんは、テレビ制作会社時代に取材で訪れたモンゴルに魅せられて留学。同国のシャーマニズムやラップを研究してきた。
ソ連の衛星国だったモンゴルに欧米ポピュラー音楽がなだれ込んだのは90年代。元来、外来文化の受容にたけているモンゴル人は、社会主義時代の公共施設に機材を持ち込んでクラブ化し、馬頭琴やホーミーを駆使してヒップホップを見事に「モンゴル化」してしまう。モンゴル伝統の口承文芸とラップが、「韻」という点で連続性を持つことにも興味が尽きない。(板垣麻衣子)=朝日新聞2021年3月20日掲載