初めて見るのに、懐かしさとぬくもり、そして寂しさが、胸の奥に届く。たまたま手にし、ページの中にたたずむ人々を見ながら。
顔も服装もはっきりせず、ときに腕や脚も判別できない小さな彫刻。要素をそいで純化を図るのは、モダニズムの美意識ともいえるが、本書の作品群では、表現をそぎ落とすほどに、表情や醸す空気は豊かになってゆく。
作者の沢田英男(1955年生まれ)は、東京芸術大やドイツで美術の専門教育を受けている。89年に帰国後、公募展や個展という形で作家活動をしたものの、手応えが得られない。頭をカラにして感性で木と向き合い、小さな木彫を手がけることになったという。
シンプルではあるが、無味乾燥ではない。木の風合いを生かし、ほんのちょっとの削りや彫り、像の傾きで、人の気配やしぐさが伝わる。表現の省略が、普遍化につながる。
沢田はこう記している。「小さいもの、か弱いもの、孤独のなかにこそ美はある」=朝日新聞2021年3月20日掲載