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『マイノリティデザイン 「弱さ」を生かせる社会をつくろう』 「苦手」が新しい市場と価値を生む

 数千万人の“マス”に向けて広告コピーを書いてきた著者は、生まれてきた子どもにあった先天的な視覚障害と真剣に向き合う中で仕事のやり方が大きく変わっていった。

 片手で使えるライターは、片腕の人でも火をおこせるようにするためのアイデアから生まれ、社会的弱者は「発明の母」になる。著者がこのことを知ると、車いすに乗る人が持つ床を機敏に這(は)う能力に着目し、みながイモムシの格好で這ってプレーする「イモムシラグビー」が思い浮かんだ。ふだん弱者とされる人が強くなる、既存のスポーツとは違った新しい価値が生まれる場が誕生したのだ。

 著者は日本が「失われた30年」を過ごした理由をマスに寄り過ぎたからだと考える。「ごく普通の家庭」が必ずしも多数派ではなくなり価値観が多様になった今、マイノリティーの中にこそ向き合うべき課題と未開拓の市場がある。

 障がい者やLGBTQばかりでなく誰の中にもマイノリティー性はある。著者はスポーツが苦手だからこそ身体能力の差が出にくく勝っても負けても楽しい「ゆるスポーツ」という市場を創れた。自分の持つ弱さを、そのまま楽しめる社会にするアイデアが新たなビジネスになるのだ。=朝日新聞2021年4月3日掲載