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「アニメと戦争」書評 語り口変わり「究極のごっこ」へ

評者: 石飛徳樹 / 朝⽇新聞掲載:2021年04月10日
アニメと戦争 著者:藤津亮太 出版社:日本評論社 ジャンル:ゲーム・アニメ・サブカルチャー

ISBN: 9784535587533
発売⽇: 2021/03/02
サイズ: 19cm/261p

アニメと戦争 [著]藤津亮太

 いつから「反戦」は日本人の常識ではなくなったのだろう。私の若い頃、1960~70年代にも大東亜戦争を称揚する人はいたが、あくまで少数派だった。今やネット空間には進軍ラッパが鳴り響いている。
 戦争を扱ったアニメを、通史として俯瞰(ふかん)した本書を読むと、分岐点は80年代だったことに気づかされる。著者の藤津亮太は、戦中の「桃太郎 海の神兵」から「この世界の片隅に」までを論じるに当たり、歴史学者の成田龍一が提唱する時代区分を物差しにする。
 成田は先の戦争の語られ方によって時代を四つに分ける。(1)戦争が実際に行われていた「状況」の時代。(2)語り手も聞き手も戦争体験がある「体験」の時代。(3)戦争を知らない人が聞き手となる「証言」の時代。(4)戦争体験のない人が多数を占める「記憶」の時代。
 藤津は、アニメもこの4段階に沿って語り口が変化したという。「ゲゲゲの鬼太郎」を例に取った第1章が鮮やかだ。68年を皮切りに5回も作品化された「妖花」という挿話が、時代が下るにつれ、語り口が「体験」「証言」「記憶」へと移ったことを実証する。
 第2章以降は、「宇宙戦艦ヤマト」「機動戦士ガンダム」「超時空要塞(ようさい)マクロス」など、時代を画した名作を中心に語り口の変化を分析する。そこから立ち現れるのはいわゆる「風化」である。「証言」時代の末期となる80年代、戦争を知らない作り手が登場し、戦争がサブカル化していく。
 これはアニメだけの潮流ではない。この時代、「反戦」などという生真面目な思想が小馬鹿にされ、戦後民主主義的な常識は骨抜きになった。そして21世紀に入ると、「究極の戦争ごっこ」といえる、意匠としての戦争表象が登場。自衛隊が協力する作品も増えた。
 藤津の筆致は終始冷静であり、アニメという主題から逸脱することはない。しかし私には、現代の日本人の生き方全体を問い直す憂国警世の書と読めた。
    ◇
ふじつ・りょうた 1968年生まれ。アニメ評論家。著書に『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』など。