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椎名誠さんの新刊SF「階層樹海」 アマゾン探検からイメージした、樹木生命体 

椎名誠さん

木の無限の可能性を感じた

 辺境を旅する作家、椎名誠さんの新刊『階層樹海』(文芸春秋)は、その名のとおり、樹海が幾重にも積みかさなったような架空世界が舞台のSF長編だ。世界各地への旅とともに、SF小説の執筆はデビュー当時から取り組むライフワーク。今作では「いままでの系譜にない、新しいSFに挑みたかった」と語る。

 階層樹海があるのは、人類が滅亡し、あらゆる生物が樹海でしか生きられなくなった未来の惑星。そこでは、身長が3分の1ほどになった新たな人間たちが、不思議な生物との生存競争のなかで暮らしている。

 主人公は、12歳になった部族の少年スオウ。兄や村の古老たちに樹海で生き抜くすべを教わるうちに、世界の秘密が徐々にあらわになっていく。イメージの下地にあったのは、かつて夢中になったブライアン・オールディスの名作『地球の長い午後』と、自らのアマゾン探検だったという。

 「ダーウィンが驚きに満ちて見た植物を、自分もこの目で見た。深い感動と、そこから湧いてきたイマジネーションがありました」

 アマゾンではさまざまな種類の木や植物が混然一体となっている。そこから新しい「樹木生命体」が生まれるかもしれない――そんな想像が、ヘンテコな生物として作中に息づく。ヘビのような見た目をした〈ヨジノボリ〉や、親木を取り殺す〈シメゴロシの木〉といった寄生樹もそうだ。

 「絞め殺しの木は、アマゾンで現物を見ました。大きなネジのように木に巻き付いて、やがて親木が枯れてしまうと、寄生した太いネジのような木だけが白骨のようにして残る」。現地で目の当たりにして、「木の無限の可能性を感じた。植物には動物と対等な存在意義があるし、ちからもあると思うんです」。

 なぜ、人類は滅亡してしまったのか。そのナゾに迫るヒントは作中にちりばめられているが、わかりやすく解説はしない。「読む人に勝手にどんどん想像していってもらいたい」。その態度は、自らがSFに目覚めた青少年の頃、さらには、海や川で遊んだ幼少期の記憶と結びつく。

 科学にまつわるエッセーをまとめた『ノミのジャンプと銀河系』(新潮選書、2017年)は冒頭、〈子供の頃の一日はナゾに満ちていた〉の一行で始まる。

 「子どもは一日が短いですよね。あっという間に終わってしまう。老人になると、一日が長いんですよ。といって一年は短いし」。笑いながら、こう続けた。

 「自分が一生のうちに見てきたものと、書いてきた世界はどこか通底していますね。なんだかんだで、どこかでつながっている。僕はSFを書けて、恵まれてるなと思っています」

「厄災後」から「人類以後」へ

 椎名さんには小説やエッセーなど膨大な数の著作があるが、なかでも「シーナSF」と呼ばれるSF作品群は重要な位置を占めている。特徴は、一貫してポストアポカリプス(厄災後)を描いてきたことだ。

 1990年に刊行し、日本SF大賞を受賞した最初の長編『アド・バード』(集英社文庫)では、「広告戦争」の果てに汚染され、生物が異常進化した地球で父親をさがす兄弟とアンドロイドの旅を描いた。

 続く『水域』(講談社文庫)の舞台は、何らかの厄災のために水没した都市。次の『武装島田倉庫』(小学館文庫など)で書いたのも、戦争の荒廃から20年近くが経つ終末世界だった。

 これら3冊は同じ年に刊行され、のちに椎名さんの「SF三部作」として知られる。厄災に「北政府」が絡むとみられる作品群はその後も書き継がれ、おもな短編が『椎名誠[北政府]コレクション』(北上次郎編、集英社文庫)で読めるほか、長編には『ケレスの龍(りゅう)』(KADOKAWA、2016年)がある。

 厄災後を描くのは、最新作『階層樹海』でも変わらない。だが、この作品が一歩先へと向かうのは、厄災後の人類の姿を、いわゆるポストヒューマン(人類以後)として描く点だ。

 東日本大震災やコロナ禍を経験した私たちは、いったいどのような変化をたどるのか。椎名さんの想像力は、いまなお新鮮味を失わない。(山崎聡)=朝日新聞2021年4月14日掲載