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安田佳澄「フールナイト」 酸素薄い世界、死期近い人を植物化

 世界中のあちこちで、気候変動が生態系に影響を及ぼしている。事態の何割かを招いた人類も、その射程から逃れることはできない。本作は、その先の先にあるかもしれない未来の物語だ。

 分厚い雲が陽(ひ)の光を遮り、冬と夜が続いて植物が枯れ果て、酸素が薄くなった世界。人類は死期が近い人を「霊花」と呼ばれる植物に変える「転花」技術を開発し、彼らが作り出す酸素で生き長(なが)らえていた。超絶格差社会で暗澹(あんたん)たる思いのまま人として果てるか、苦しみを脱ぎ捨て植物として生きるか、人類は究極の選択を突き付けられる――。

 転花に際しては1千万円の手当が支払われる。家族のため、今の暮らしと決別するため、絶望や親子関係の綾(あや)が人を転花に向かわせる。シビアな状況にヒリヒリするが、霊花の描写はどこかリリカル。一方で、植物化する過程はグロテスクで、新人とは思えぬ画力と不思議な世界観に引きこまれてしまう。

 主人公は霊花の言葉が分かるようになった青年。霊花は彼に何を語りかけるのか? 根源的な罪悪感を刺激するディストピアと、人と人、人と植物との繊細な対話。その両軸を絶妙なバランス感覚で描きだしたヒューマンSFだ。=朝日新聞2021年4月17日掲載