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『Exhibition History vol.1』

『Exhibition History vol.1』から、個展の様子

 小松浩子さんの展示は彼女の被写体と似ている。本書を眺めていてそう気づき、なるほどと思った。写真集だが、作品画像に加えて初期の展示記録が収録されている点にも惹(ひ)かれる。彼女の展覧会には、一つも見逃したくないと思わされる魅力があるからだ。「見る」というより「感じ」に行く。酢酸のむせかえるような匂いが会場の外まで出迎える、あの空間に是非、立ってみてほしい。

 会場には膨大な数の、うち捨てられた工業製品の写真が所狭しと並ぶ。しかし、二〇〇九年の最初の展示と三年後のそれには大きな違いが見られる。最初は壁だけを整然と覆っていた印画紙が、ある時から床にも敷き詰められるようになり、切り出す前のロールの印画紙も天井から垂れ下がり始め、縦横無尽に空間を横切るようになる。鑑賞者はイメージを踏んで移動することに戸惑い、空間と同じく複雑な構造のテキストに脳をわし掴(づか)みにされる。圧倒的な体験のエッセンスは、本書からも感じ取ることができる。=朝日新聞2021年4月17日掲載