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50代から人生逆転!? 高橋ツトム「JUMBO MAX」(第125回)

 昨年から「ビッグコミック」(小学館)で連載している『JUMBO MAX』は、30年のキャリアを持つ鬼才・高橋ツトムの新境地とも呼べる意欲作だ。まず、主人公が目を引く。小田原で薬局を営む53歳の曽根建男(たてお)は腹の出た中年男で、お世辞にも女性にモテそうなタイプではない。スタイリッシュな高橋ツトム作品としては異例の“さえない主人公”だろう。インパクトある「見開き」も封印し、あくまで淡々と物語が進められていく。

 バツイチの子持ち美女あかねに一目惚れした建男は出会って3ヵ月でプロポーズ。泥酔した夜に一度だけベッドをともにしたが、実は「これまでに勃起したことがない」という重度のEDを抱えていた。ところが、あかねはその一夜で妊娠したという(てことは建男より10歳は若いのだろう)。自分が父親のはずがない! ショックを受ける建男はひょんなことから謎のED薬に出会って生まれて初めての勃起を体験。「人生を変える」ため、二度と手に入らないその薬を自作しようと考えるのだった。

 この序盤を読んだとき、1992年から「モーニング」(講談社)で連載し、第18回講談社漫画賞も受賞したヒット作『鉄人ガンマ』(山本康人)を思い出した。大手スーパー精肉部主任の丸麻(がんま)照男は多くのコンプレックスを抱えるアラフォー男性。さえない人生で唯一ともいえる成功体験は誰もがうらやむ理想の妻オシリーナと結婚したことくらいだ。数々の恥ずかしい過去と激しい自己嫌悪に悩みながら、「自分を変えたい!」と願うガンマの奮闘が笑いと共感を呼ぶ異色のコメディーだった。「さえない中年男」「なぜか美女と結婚」「変身願望」など、主人公の共通点は少なくない。

 もっとも、内容は大きく異なる。いくぶん笑いの要素もあるものの、『JUMBO MAX』は極めてシリアスなクライムストーリーだ。帝都大の宝生鹿子(かのこ)の協力も得て、建男はついにスーパーED薬「ジャンボマックス」を造り出す。それを飲んだ帝都大の教授が死んだことで鹿子たちに脅され、違法薬物の密売に手を染めることになっていく――。

 読者を選ばない作品だが、やはり最大のターゲットは建男と同世代の中高年男性だろう。ジャンボマックスといえば、70年代に『8時だヨ!全員集合』(TBS)に登場した巨大な人形の名前。建男の偽名「草加太郎」は、60年代に吉永小百合に脅迫状を送ったり自作の拳銃で人を撃ったりして世間を騒がせた「草加次郎」が元ネタに違いない。単行本の表紙は往年の映画ポスターをイメージしたそうで、そこかしこに懐かしい昭和のにおいが漂っている。

 鹿子に加え、最初に密売を持ちかけた須磨岡、刑事の大佛(おさらぎ)など、建男以外のキャラクターは一筋縄でいかないヤツらばかり。そもそもプラトニックな関係のまま建男と結婚したあかねにしても、何を考えているのかわからない不気味さがある。建男の今後はどう見ても暗そうだが、同世代の読者としては応援せずにいられない。