1. HOME
  2. コラム
  3. みる
  4. 仲條正義さんのデザイン集『仲條』 カオスを超えた先のときめき

仲條正義さんのデザイン集『仲條』 カオスを超えた先のときめき

『仲條』から、資生堂の雑誌「花椿」(1972年)で仲條氏が手がけたページ

 デザインを見るとき、どうしても最初気持ちよさみたいなものに惹(ひ)かれてしまう。それは要素それぞれのすわりの良さやノイズのなさだとかで。けれどそういうものが全てではない、というより、気持ちよさなんかで満足していていいのか?と思わせてくれるのが、仲條さんのデザインだ。

 ノイズがなくちょうどいい、当たり前のようにそれを「良いこと」だと考えてしまうがそんなの本当はとても退屈で、無限に人間が暮らしていて情報が流れ続ける世界に生きている意味があまりにもない。カオスで、触れるだけで疲れるものは確かに多いしそれは避けたいけれど、それらを排除するのではなく、それらを乗り越えた先にある美しさみたいなもの、そこに出会いたい。それは「気持ちよさ」ではない、それを人は「ときめき」と呼ぶ。

 仲條さんのデザインは、ときめきの塊のようなものです。自分の内側には決してない、世界そのものとして現れる異質なかっこよさが、私に私一人の感性だけで生きることのつまらなさを教えてくれます。そしてこんなときめきそのものでしかない作品は、作り手が個人として、世界ではなく、一人の人間として強烈に存在しているからこそ生まれるものだとも思うのです。=朝日新聞2021年5月1日掲載