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アニメ映画「100日間生きたワニ」で声優を務めた神木隆之介さん&上田慎一郎監督 止まった時を動かすきっかけに

文:根津香菜子、写真:篠塚ようこ

当たり前にある状況が大事

――まずはお二人が原作を知ったきっかけから教えて下さい。

神木隆之介(以下、神木):僕は連載50日目ぐらいの時に、色々なメディアが「『100日後に死ぬワニ』が今話題です」と取り上げていて、「何だろう?」と気になり、そこから見るようになりました。その後も毎日ではないけどチラチラと見ていて、気づいたら89日目くらいになっていて「あ、もうあと11日しかないんだ」「ワニが死んじゃうまでどうなっていくんだろう」と思い、そこからは毎日見るようになりました。

僕、原作について色々書いている「2ちゃんねる」も見ていたんです(笑)。「早く先輩に告れよ~」とか「お前にはもう時間がないんだぞ」って書いてあったけど、そういうことを言えるのは、みんながワニの運命を知っているからなんですよね。それを自分に投影した時に、時間や仲間もそうですが、当たり前にある「今ある状況」がすごく大事なんだということに改めて気づくことができて、素敵な作品だなと思いました。

上田慎一郎 (以下、上田):僕は連載2日目ぐらいから読み始めていました。100日というカウントダウンのリアルタイム性のおもしろさはもちろんですが、Twitterでリプライ欄がめちゃくちゃ盛り上がっていたんですよね。「ここはこうじゃないか」とか「これはこういう意味なんじゃない?」とか、見た人が「ああだこうだ」と自分の解釈を言いたくなるし、多くを語らない余白みたいなものにすごく惹かれて、連載30日目くらいに「映画化したい」という企画書を書いていました。

――神木さんはワニ役のオファーを受けた時、どんなお気持ちでしたか?

神木: 様々なSNSで見ていた「ワニ」がブワーっとフラッシュバックして「あのワニじゃん!」って思いました(笑)。これまで何作かアニメ作品のキャラクターの声を担当させていただきましたが、この作品のワニはすごく分かりやすいキャラクターでもあるから「僕はこのキャラクターをやったよ」と言える作品になるなと思いました。

上田:「俺、アンパンマンやったよ」みたいな感じ?

神木:アンパンマンはまたちょっと別物ですけど(笑)。でも僕の中で「このキャラクターをやったよ」と言える作品になったのは、すごくうれしいなと思います。

――神木さんはこれまでにも、「君の名は。」の立花瀧役などの声優を務められていますが、今作でワニを演じるにあたり何か心がけたことはありますか?

神木:アニメの声優をする場合、アニメだからこそ声でさらに表現をしようとしてしまったり、「もうちょっと伝わるようにやった方がいいのかな?」と考えたりすることが割とあるのですが、上田監督が僕ら出演者のそういう意識をうまいこと取り除いてくれて「普通の幼馴染みたいな距離感で接してほしいから、特別何も考えなくていいよ」とおっしゃってくれたので、とてもやりやすかったです。

©2021「100日間生きたワニ」製作委員会

――上田さんは本作のメインキャラクターであるワニ、ネズミ、モグラを演じた3人の声を聞いて、どんな印象を持ちましたか?

上田:神木さんや中村(倫也)さん、木村(昴)さんの声を聞いた上で本作へのオファーをしているんですけど、やっぱりワニのセリフを神木さんがしゃべった時に「あ、ワニってこんな声していたんだ!」っていう当たり前のことを感じましたね。それまで自分が持つイメージもあったんですけど、それを超えてきてくれることもすごく多くて、そういう時って監督している醍醐味の一つというか。制作側である僕らは僕らで最初に100点を持っているんですけど、やっぱり120点までいきたいじゃないですか。そのためには、一緒にやる人たちの力がないといけないので、そういう瞬間がこの作品ではたくさんありましたね。

タイトルに込めた余白

――後半は映画のオリジナルストーリーになっていますが、コロナ禍で脚本を大幅に変更されたそうですね。具体的にはどんなところを変えたのですか。

上田: Twitter の連載の最終回が終わってから初稿を書き始めたのですが、最初は原作を再構成して、後日談が5分くらいついているだけだったんです。それがコロナ禍になり、「当たり前の日常」の中で「死」を意識することによって、今が変わる、今日が変わるということがうまく機能しづらくなったなと思ったんですよね。当たり前の日常がなくなって、毎日死を意識するような世の中になってしまったので、原作のテーマを保ちつつ、その先の物語も描かなければいけないと思い、後半で新しい物語を書き加えて、タイトルも変えたんです。

――原作のタイトル『100日後に死ぬワニ』と、映画の「100日間生きたワニ」では、捉え方に大分違いがあるように感じました。

上田:「どうしてタイトルを変えたの?」と聞かれることも多いのですが、それは原作と映画で物語が変わったからなんですよ。それに、タイトルの意味や捉え方を変えたかったというところもあるんです。このタイトル自体も余白を持っているというか、観る人によって受け止め方も違ってくると思うので、それぞれが「なぜこのタイトルなのかな?」と考えてもらえたらいいのかなと思います。

©2021「100日間生きたワニ」製作委員会

――神木さんは後半のストーリーをどのように感じましたか。

神木:大切な人が突然いなくなったらグループの連絡だって止まりますし、残された人たちの時間は止まりますよね。誰かが一歩踏み出さなきゃいけないこともないけれど、踏み出したい気持ちもあるだろうし、踏み出さなきゃいけないんだろうなって思う気持ちもあるだろうし。だけど、踏み出したらその人が遠くなってしまうんじゃないかなっていう寂しさもあるのかなと思うんです。一緒にいた最後の時から動かずに、そこに止まっているからこそ隣にいるように感じる。だけど、止まった時間は動かしていかなきゃいけないことは心の中では分かっているんですよね。

(3月の取材時点で)僕もまだ完成作を見ていないので分からないのですが、そこの絶妙な距離感を倫也くんたちがうまく表現してくれていると思いますし、会話がすごくリアルでアニメっぽくないんですよ。物語の時間の進み方も「あ、いなくなったんだな、ワニが」っていう喪失感がすごくあって、きっとこの映画の中では、僕(ワニ)以外の時が止まった仲間たちがすごく重要で、その人たちのこれからの物語なんだなと思いました。

――映画の後半で登場する新キャラクターのカエル(山田裕貴)は、中々の重要な役どころのようですね。

上田:いつもの日常が失われてしまって、そこから新しく何かを受け入れないといけない、現状維持から飛び出さないといけない時の抵抗感ってあるじゃないですか。そういったものの象徴にもなればいいなと思い、カエルというキャラクターを作りました。

神木:カエルはワニと入れ違いで登場するので、僕も早くカエルの声が聞きたいです。コロナ禍になって状況が変わり、失ったものや諦めなきゃいけないこともあったりして、時間が止まってしまった人たちもいると思います。そんな方たちの後押しとまではいかないですが、時が一秒でも、一瞬でも動きだすことの出来る要因の一つになれる作品であったらいいなと思っています。