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「グローバル・ヒストリー」書評 世界的な共時性から構造見通す

評者: 戸邉秀明 / 朝⽇新聞掲載:2021年05月08日
グローバル・ヒストリー 批判的歴史叙述のために 著者:ゼバスティアン・コンラート 出版社:岩波書店 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784000226448
発売⽇: 2021/01/29
サイズ: 20cm/253,41p

「グローバル・ヒストリー」 [著]ゼバスティアン・コンラート

 グローバル・ヒストリーの潮流が歴史学を席巻している。地球規模の人や商品の移動を、それらが出会う境界やネットワークに着目して長期にわたって捉えると、古くから有機的に結びついていた世界が見えてくる。地球市民の育成に必要な知とされる所以(ゆえん)だ。
 しかしJ・ダイアモンドやY・N・ハラリの人類史が流行(はや)る一方、数量経済史によるマクロ比較が依然主流を占めており、全体像は捉えがたい。本書はこの状況を、競合する視点の得失から明快に整理してくれる。
 この潮流のいわば専売特許は、複数の対象の「接続と比較」にある。ただし期間や規模を広げれば良いわけではない。ネットワークを数え上げるだけでは、つながりがはらむ権力関係の実際が均(なら)されてしまう。人類史を左右する地理や生態系の条件を強調するほど、環境決定論に傾きやすい。
 そこで提起されるのが、複雑に絡まり合う「因果関係の関係性」の重視である。たとえば日本など非西欧圏のファシズムは、典型例のナチスドイツに比べ、いびつなものとして長く説明されてきた。だが今日では、新たな動員や排除の方法が、世界各地で相互作用を起こした共時的な現象に注目が集まる。国ごとの歴史的特性を根拠とするよりも、当時の趨勢(すうせい)が創り出す世界的な文脈との関係の中に位置づける方が、グローバルな構造を見通せるからだ。
 従来の歴史学が抱える問題点は、これで克服できただろうか。ヨーロッパ中心主義への批判が、中国中心の文明論へと振れ、さらに欧米の「西洋」的自尊心を焚(た)きつけている。この「中心主義」の悪循環に抗するように、著者は社会科学が国際的な協働で培ってきた反省的「普遍主義」の意義をあらためて擁護する。
 来年度から高校で始まる新科目「歴史総合」が、こうした批判的検討をふまえているのか、正直心もとない。土台となる見方をまずは鍛えたいと望む時、本書がもたらす示唆は大きい。
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Sebastian Conrad 1966年、旧西ドイツ生まれ。ベルリン自由大教授(ドイツ植民地主義史、日本近現代史)。