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オノレ・ド・バルザック「糸繰り女」 亡くなった夫の翻訳に挿絵を付けて出版

 オノレ・ド・バルザックの『糸繰り女』が刊行された(鳥影社・1540円)。初邦訳。バルザックには珍しいおとぎ話で、魔女のような姿をした糸繰り名人の老婆から、眉目(びもく)秀麗な息子がひどい仕打ちを受ける。翻訳は故・石井晴一さん。

 バルザックの研究と翻訳で知られた石井さんは2013年、短編集『艶笑滑稽譚(えんしょうこっけいたん)』の岩波文庫向けの手直しを終えて亡くなった。作業の合間に翻訳し、残したのが『糸繰り女』。未発表の翻訳稿を「せっかく翻訳したのにもったいない」と妻の滋子さんが本に仕上げ、自ら挿絵を描いた。

 晴一さんの最晩年の訳稿は、表記の不統一や同じ語尾の繰り返しといった不備も目に付いた。滋子さんは知人の専門家の協力を得て修正を加え、約1年かけて完成させた。「(夫は)『やったじゃない』くらいのことは言ってくれるんじゃないかな」と滋子さん。(川村貴大)=朝日新聞2021年5月15日掲載