ISBN: 9784163913513
発売⽇: 2021/03/25
サイズ: 20cm/340p
ISBN: 9784163913520
発売⽇: 2021/03/25
サイズ: 20cm/333p
ISBN: 9784791773763
発売⽇: 2021/05/12
サイズ: 20cm/501,41p
「アウトサイダー」(上・下) [著]スティーヴン・キング/「スティーヴン・キング論集成」 [著]風間賢二
翌朝に予定があるなら『アウトサイダー』を読み始めてはならない。ページを開いたが最後、やめられなくなるからだ。
オクラホマ州の地方都市で、13歳の少年が凌辱(りょうじょく)され殺されるという残虐な事件が起きる。多くの目撃証言やふんだんに残された指紋などから、警察はテリー・メイトランドを犯人と断定。衆人環視の中で彼に手錠をかけた。
しかしテリーは事件当日に出張で遠くの町にいたと主張。調べてみるとそちらにも多くの目撃者や科学的証拠が見つかったのだ。
どちらが本当なのか。片方が本物なら、同時刻に別の場所に現れたテリーは何者なのか……。
上巻はアリバイを巡る攻防と冤罪(えんざい)の悲劇にページをめくる手が止まらない。だが本書はミステリではなくスティーヴン・キングだ。次第に人智(じんち)を超えたものの存在が炙(あぶ)り出される。下巻ではふたつの場所に同一人物が現れるという怪異がクローズアップされ、上巻で敵対していた人々がチームを組んで怪異に立ち向かうのである。
その過程で浮かび上がるのは、自分の常識の外にある出来事が起きた時、人はどう対応するかという問いかけだ。頑として否定しても、見ないふりをしても、問題は解決されない。これまでの経験を疑う勇気があるか。見栄(みえ)や意地を捨て、信念を変える柔軟性はあるか。感染症という未知の敵と戦う現代が重なって見えた。
キングは1974年の『キャリー』を皮切りに、半世紀近くにわたってモダンホラー界を牽引(けんいん)してきたベストセラー作家である。ホラーの帝王と呼ばれるが、その作風は普通小説からSF、『スタンド・バイ・ミー』のようなノスタルジックな青春ものまで幅広い。
そのキング作品を網羅し、彼の足跡を追ったのが風間賢二『スティーヴン・キング論集成』だ。キング作品の何が読者をここまで魅了するのか、年代ごとにまとめられた評論の数々はボリュームも密度も熱量もたっぷり。ほとばしるキング愛と冷静で緻密(ちみつ)な分析が並び立ち、まるで「スティーヴン・キング」というひとつの壮大な物語を読んでいるかのようだ。
キングが『シャイニング』の映画に不満だったこと、『IT』を生んだ不思議体験などエピソードも満載で、本書を読むともう一度その作品を読みたくなる。興味のある項だけ読むのもいいが、通読すると、キング作品を通してこの半世紀のホラー史が浮かび上がる点も見逃せない。
巻末には、怖さ・難易度・お薦め度を0~5の6段階評価で記した全作品ガイドも掲載。コアなファンにも、映画は見たけど原作は未読というビギナーにも、広く薦められる評論集である。
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Stephen king 1947年、米国生まれ。小説家。『スタンド・バイ・ミー』『ショーシャンクの空に』など映像化作品多数▽かざま・けんじ 1953年生まれ。翻訳家。『ホラー小説大全』で日本推理作家協会賞。