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「後期日中戦争」書評 対米戦にも目を配り新鮮な分析

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2021年06月12日
後期日中戦争 太平洋戦争下の中国戦線 (角川新書) 著者:広中一成 出版社:KADOKAWA ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784040823669
発売⽇: 2021/04/09
サイズ: 18cm/277p

真珠湾攻撃の裏で起きていた敗北…。太平洋戦争開戦後、日本軍は中国でどのような作戦を展開していたのか? その成否は? 主要作戦に従軍し続けた名古屋第三師団の軌跡から泥沼の戦…

「後期日中戦争」 [著]広中一成

 日中戦争の8年余の期間は前半と後半に分かれる。太平洋戦争開戦後の後半は、著者の指摘通り、太平洋戦争の陰に隠れ、精緻(せいち)に検証されているとは言い難い。実は、細菌戦、毒ガス戦、強制連行などの戦時の違反行為は後半も少なくない。
 後半の中から五つの作戦を取り上げ、一貫して中国戦線にいた第3師団を中心に、日中戦争が太平洋戦争の別動隊として組み込まれていた史実を明かす。次代の歴史家による視点であり、同時代史の制約から解き放たれている新鮮さが魅力的だ。
 例えば、第2次長沙作戦を進める第11軍司令官の阿南惟幾(あなみこれちか)や第3師団長の豊島房太郎(てしまふさたろう)の作戦へのこだわりを冷静に分析している。この負け戦の責任が追及されなかったことを論じて、阿南が1945年8月15日に陸軍大臣として自決した折の遺書(「一死以(もっ)て大罪を謝し奉る」)の「大罪」にはこの作戦も含まれているのではと推測している。
 著者によると、日中戦争の後半の主たる作戦は、大体において対米作戦と絡んでいた。浙贛(せっかん)作戦は、米軍の「ドーリットル空襲」(42年)の再来を恐れて、米軍機が着陸する予定の中国内にある飛行場をたたく目的があり、細菌戦、毒ガス戦も行っている。
 しだいに対米戦に兵力を割かなければならなくなると、当初の作戦計画(例えば5号作戦)が中止になる。しかし支那派遣軍は江南殲滅(せんめつ)作戦(43年)を独自の作戦目的で実施していく。中国軍は意図的に撤退を繰り返す作戦を進める。この間に虐殺があったと中国の資料を紹介する。
 インパール作戦と同時期に行われた1号作戦について、その中の湘桂作戦に従事する第3師団の辛苦を紹介しているが、日本軍の戦略は見破られていた。日本の国力を踏まえると、長期持久戦争の戦略思想はすでに崩壊していたのである。
 本書で「歴史」の見方が緒についたように思える。
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ひろなか・いっせい 1978年生まれ。愛知大非常勤講師(中国近現代史)。著書に『傀儡(かいらい)政権』など。