1. HOME
  2. コラム
  3. マンガ/アニメ現在形
  4. SNS発、共感呼ぶアマチュアの作品 「育児」「恋愛」…新たな表現方法

SNS発、共感呼ぶアマチュアの作品 「育児」「恋愛」…新たな表現方法

SNSでの人気を受けて書籍化した育児エッセーマンガの一例=筆者撮影

 画像投稿型のSNS、インスタグラムで「#育児漫画」と検索すると、約43万件のマンガがヒットする。そのほとんどが自身の経験をもとにしたアマチュア作家によるエッセーマンガだ。

 第1子を昨年に出産した筆者は、スマホ片手にこれを読むのが何よりの楽しみだ。プロの描く作品と比べるとオチがなかったり、なぐり描きレベルだったり……。完成度は高くないが、私はその不安定さに生々しさを感じる。リアルタイムで頑張る同志を見つけた気持ちになり、励まされるのだ。

 SNSやブログで人気になった作品が、書籍化や連載に発展する流れは珍しくない。今や、商業マンガ家になるひとつの登竜門だ。ただ、結果的にプロになることはあっても、最初からそれを目的に描かれた作品は少ないように感じる。個人的な日記として描かれたであろう作品が大半だ。

 例えば、「はじめて育児 ぐっちゃんパフェ」(竹書房)の著者・chiikoは、SNSで本作を発表した動機について「(子どもの)ぐっちゃんが大きくなった時に自分の思い出をたどれるタイムマシンになるように」と語る。元々は我が子に贈る「育児絵日記」なのだ。

 SNS発のエッセーマンガには、「恋愛」「仕事」などを題材にした作品も多い。中には単純な日記ではなく、作者の愚痴を吐き出すストレス解消を目的に描かれるものも。つまり、必ずしも読者のエンターテインメントに徹して描かれたものではないのだ。読者は無料で日記をのぞく立場であり、だからこそ下手な絵でも何百回と読んだようなネタでも気にしない。共感できるかどうかが重要だ。

 作者も共感してくれる読者だけ相手にすればいいし、投稿も自分の意思で自由に消して良い。気軽な分、投稿のハードルも低い。アマチュア作家のエッセーマンガは今、読者にとっても作者にとっても、最も消費性の高い娯楽と言っていいかもしれない。

 またこのジャンル、表現の面でも可能性に富んでいる。写真を使ったり、絵より文字が多かったり。画材も鉛筆からスマホのお絵かきアプリなど多種多様だ。固定観念にとらわれない表現がおのずと生まれている。まさに玉石混交。新しいマンガのスタイル誕生の予感がする。=朝日新聞2021年10月26日掲載