新井見枝香が薦める文庫この新刊！
- 『ののはな通信』 三浦しをん著 角川文庫 ８８０円
- 『ウィステリアと三人の女たち』 川上未映子著 新潮文庫 ５３９円
- 『女が死ぬ』 松田青子著 中公文庫 ７２６円
（１）休み時間を共に過ごし、家に帰れば長電話をして、それでもまだ伝えたいことがある。女子校に通う「のの」と「はな」の、たわいもないおしゃべりの延長と思われた書簡が、やがて恋心を伝え合い、嫉妬をぶつけて、いつしかお互いの近況を知る、唯一の手段となっていく。大切な人に宛てた書簡だけで紡ぐ物語の圧倒的な純度の高さに、それを覗（のぞ）き見する読者の常識や偏見も吹き飛ぶ。
（２）４編からなる短編集。「シャンデリア」は、働きもせず、毎日のようにデパートで一日を過ごす、四十代の女の話。気まぐれに買い物をして、レストラン街で適当に鮨（すし）を食べる。デパートのシャンデリアがいつか落下するのは、自分が真下にいる時だと思っている女は、誰かが指摘するまでもなく、虚（むな）しい。他人が自分のことをどう思うかなどわかりきっている女に、こちらを見透かされているような居心地の悪さがつきまとう。まっとうに生きる自分こそが、俗物であるようにすら思えてくるのだ。
（３）「女性ならではの」という言葉で仕事を依頼されることに苛（いら）立ちを感じた著者が綴（つづ）る、「男性ならではの」の反撃。男性ライターが男性ならではの感性で提案した男性向け商品が大ヒットするというストーリーは、切れ味が鋭い。「女性ならではの」という言葉が氾濫（はんらん）する社会に一石を投じるとともに、男女を逆転させただけの物語が「面白い」ということの異常さに気付かされる。それは男女平等とは程遠い、悪夢の繰り返しでしかない。＝朝日新聞2021年6月26日掲載
