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写真集「お父さん、まだだいじょうぶ? 日記」 そこに写る人をなにより生身に思う

『お父さん、まだだいじょうぶ? 日記』から

 なんでもない日常、とか、どこにでもいる家族、とか、そういう言葉でよその人生や家庭を愛(め)でる、というのが私はよくわからなくて、なんでもない日常なんて本当の本当の本当にあるのか?みたいなことをたまに考えます。他人が見ればなんてことはない日々、なんて、そりゃ他人は無関係なんだからそりゃそうやろ、と思ってしまうのです。「どこにでもいる家族」もそうで、そんなものは本当はどこにもないんだよなあ、という実感がゆるく楽しさを纏(まと)ってやってくる、この本はそんな力を持っています。

 家族の本となると、少しぐらいはフィルターがかかるというか、見せたくない部分とかあるはずだけど、加瀬さんの本にはそういうのがあまり見えない、というより、「こんなふうに読者に自分や家族を見てほしい」という意図が全然ないと感じるから、その辺りが気にならないのだ。むしろ家族そのものに会うことより、そこに写る人を生身に思う本かもしれない。

 こーんな面白い家族が私にいたことはないけれど、でもこーんな「特別」と思わない家族もなくて、もしかして自分の人生も結構だいぶ面白いのでは?なんてことを思えてしまうのがすばらしい。私にとってそういう意味でこの本はとてもとても「特別」であるのです。=朝日新聞2021年7月3日掲載