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フルポン村上の俳句修行 「東京マッハ」とコラボで、まさかの解散危機!?

 お客さんの前で句会をし、お客さんも「馬券を買うように」好きな句に点を入れて、一緒に句会を楽しむ「東京マッハ」。メンバーは文筆家の千野帽子さん、芥川賞作家の長嶋有さん、ゲーム作家の米光一成さん、そして俳人の堀本裕樹さん。千野さんが司会をして、長嶋さんと米光さんが比較的自由におしゃべりし、堀本さんがプロとしてびしっと締める。そこに詩人の谷川俊太郎さんや最果タヒさんら豪華ゲストが加わって、毎回チケットが完売するほどの人気を博しています。

 「東京マッハ」は2011年、千野さんが俳句連載を書籍化しようと出版社を訪れたことに始まります。「俳句は句会がおもしろい」という千野さんに「一度、そのおもしろい句会というものを見学させてください」と編集者。「じゃあ会議室ででもやりますか、って言ったら、どうせやるんだったら客を入れてやりましょうよ、ってとんでもないことを言い始めて」と千野さんは笑って当時を振り返ります。

千野帽子さん▶日曜文筆家。女性誌・文芸誌・新聞などにエッセイ、書評を寄稿。著書に『俳句いきなり入門』(NHK出版新書)、『人はなぜ物語を求めるのか』(ちくまプリマー新書)ほか。今年の冬、過去の東京マッハの句会からセレクトしての単行本化を予定。

 もし客の前ですべって怒られても、句会はできる。そこで千野さんは顔見知りだった長嶋さん、米光さん 、いっしょに俳句連載をやっていた堀本さんに声をかけて、数カ月後には1回目のイベントを開きます。事前の顔合わせなし、打ち合わせもなし、台本もなし。開始1時間前に初めて4人で集まり、句会を通して打ち解けていったと言います。

 「句会ってシステムとしては楽しくしかなりようがないのに、メンバーの相性のせいで楽しくならないことが多いんですよね。フランクに話して、フレンドリーで楽しくなる上に、なおかつまったく急所も外さずにごりっと深い話もできる、っていうのは相性がよくないとできない。このメンバーだったら大丈夫かなと」

 それから約10年、27回やったイベントはいつも満員御礼。「メンバー4人で顔を合わせるたびに、なんで毎回チケット完売してるの?って顔を見合わせています」と千野さん。「僕はおもしろいもののおもしろさって、伝わらないのが当たり前だと思ってるんです。だって一人ひとりおもしろいと思っているものが違いますよね」。そう言いつつ「東京マッハは毎回終わった後の飲み会のお酒がおいしい。これやってるとハッピーなんです」。

題は「居酒屋」と「ページ」

 東京五輪開催中の8月2日午後9時、無観客でのオンライン開催になった東京マッハvol. 28、名づけて「真夏の果実五種盛りにして無観客」に村上さんが参加しました。お題はゲストの村上さんから「居酒屋」、前回一番点を取った長嶋さんから「ページ」が出され、各自が雑詠と合わせて5句提出します。それぞれ特選1句と並選4句、そして逆選(文句をつけたい句)1句を発表するところからスタート。選がばらけたこの日、最高の4点(特選2人)と逆選を集めたのは米光さんの「二死満塁枝豆のさや持ったまま」でした。話し始めたのは、逆選として取った長嶋さんです。

長嶋有さん▶小説家、俳人。『猛スピードで母は』で芥川賞、『三の隣は五号室』で谷崎賞を受賞。句集に『新装版 春のお辞儀』(書肆侃侃房)がある。

長嶋:この句の傷は「二死満塁」だと思う。逆転さよなら満塁ホームランみたいなドラマの設定として、たった6音で言えるいいワードなんだけど、ちょっと強すぎて俳句ができすぎになるというかね。ウェルメイドなものになっちゃった。もっと崩してくれないとね。

千野:長嶋さんの気持ちもよく分かって、僕の中でこれを特選にするにはすごく迷いがあったんです。俳句って「読者が仕事を気持ちよくできる」ことが大事だと思ってるんですが、これ、あんまり読者の仕事がないんですよね。「二死満塁っていう緊迫した状況だと、枝豆のさやを持ったままになっちゃうよね」っていう。とはいうものの、この句が緊急事態宣言下のこのタイミングで出てきたことを言祝ぎたい。まず村上さんが(題に)出してくださった「居酒屋」縛り、各地で緊急事態宣言とか「まん防」があった中での縛りだったんじゃないでしょうか?

村上:救いってほど大げさなものじゃないですけど、居酒屋っていう当たり前にあった風景を、せめて俳句の世界では楽しめてもいいかなって。

千野:このお題を聞いたときに、軽くグッと来たんです。この句にベットしたいと思ったのは、夜だって考えるとプロ野球になっちゃうんだけど、時期として昼酒飲みに行って、甲子園でもいいと思ったんですよ。はっきり言って今の世の中で、一番我慢させられてるのって若い人たちでしょ。ワクチンは打たせてもらえないわ、出歩いたお前らのせいで感染者が増えるって言われるわ。個人的に若い人たちに申し訳ないって気持ちがあるもんだから、プロより甲子園と読みたいと思っちゃって、余計に肩入れしちゃったんだよね。

長嶋:朝日に載るからっていいこと言い過ぎだよ、ちょっと。

一同:(爆笑)

村上:僕も特選に選ばせていただいて、確かに二死満塁は劇的ではあるかなと思ったんですが、だとしても、超ポピュラーで身近にある枝豆に、ドラマってあるなと思うんですよ。その中で、「さやを持ったままである」っていうのがすごくいいなと思って。

長嶋:僕は「二死二塁」とかの方がいいと思うんだよ。敬遠させるとか打たせて取るかとか、そういう醍醐味が個別に発生するから。

米光:逆選から(選評が)始まってるから、それに影響されて特選で選んだ人がさしてほめてない、っていう。いまいち「できすぎてるからダメ」っていうのが分からないよ。できてるからいいじゃん、って思っちゃう。

村上:僕はプロの俳人ではないですけど、真正面よりちょっと外した方が俳句の世界の価値観ではいい、っていうのは分かるんですよね。でも俳句の裾野を広げるときに、俳句を知らない人が街の看板に飾ってあるのを見ていいと思うなら、「二死満塁」の方がいいと思う。

長嶋:まったくそうだわ。

千野:手のひら返したね~(笑)。

長嶋:裾野を広げるっていう意味の強さがあるよね。

堀本:今の話を聞いてて、「二死満塁」っていうのはちょっと予定調和な感じがしていて。一番緊迫する場面はどこかなって考えて、たぶん作者は二死満塁にしたんだなと思った。すごく目に浮かぶし、この句自体はいいなと思ったんだけど、僕は毎日のように俳句を見ていて、枝豆と野球の取り合わせって非常に多いんです。どうしても僕の中では「枝豆と野球か」って考えになっちゃって、選べない。

米光:はい、(作者は)米光です。ほめてよ~。俺の中では俳句始めて10年たったから、相当高みに立った句を作ったつもりなのに。裾野って言われてるからな。東京マッハの敷居高いわ。まだまだがんばりますよ。

上位を米光さんが独占、米光句会に

 続く3点句(特選1句と並選1句)は「ペダル式消毒器踏む日雷」「慰霊碑の三歩手前に蟹がいる」。いずれも米光さんの作で、盛り上がりました。

長嶋:米光句会じゃん。

米光:ありがとうございます。なんで今日お客さんいないんだろうな! 今からでも入れようよ。「慰霊碑」の句は実景です。(地元・広島の)平和記念公園なので沢ガニかな? バッハさんが来た日に。本当は「バッハ」も入れたかったの。

長嶋:「慰霊碑の三歩手前にバッハかな」だな、じゃあ。

米光:そうしたかったけど、そうすると点が入らないと思ってバッハは省きました。

米光一成さん▶ゲーム作家、デジタルハリウッド大学教授。「はぁって言うゲーム」「ぷよぷよ」などのゲーム企画・脚本・監督を手がける。

 3点句はもう一句、季語ならぬ「注文が動く!?」と話題になった長嶋有さんの「ハムカツと復唱された夜の秋」がありました。居酒屋を詠んだ句は高得点あり、逆選あり、長嶋さんいわく「句会全体がいい居酒屋のよう」なにぎわいを見せました。

二死満塁枝豆のさや持ったまま 米光一成 4点+逆選1
ペダル式消毒器踏む日雷 米光一成 3点
ハムカツと復唱された夜の秋 長嶋有 3点
読み方を調べるごとく小骨とる 村上健志 2点
手から手へ突出し廻す涼しさよ 堀本裕樹 1点
水茄子の刺身の重き器かな 村上健志 1点
おろしたてのサンダルとりあえずノンアル 千野帽子 逆選1

 一方、「ページ」の題は千野さんの「夏の日に褪せてやわらかタウンページ」に1点入ったのみ。実はテレビ番組で「行間に次頁の影夕立晴」という村上さんの句を知った長嶋さんが「村上殺し」のつもりで出したのですが、いわく「全員死ぬ」という結果になりました。

>投句一覧は「東京マッハ」のnoteで!

堀本裕樹さん▶俳人。俳句結社「蒼海」主宰。2016年度、19年度「NHK俳句」選者。又吉直樹さんとの共著『芸人と俳人』(集英社文庫)ほか著書多数。

「紙たばこ」か、具体的な銘柄か

 ページ句で自分の過去の句を意識しすぎた結果、「飛ばされるページ青柿ドブに落つ」と詠んで逆選がついた村上さんですが、「読み方を調べるごとく小骨とる」「夕涼や米店で買う紙たばこ」の2句がそれぞれ2点を獲得して人気に。「紙たばこ」の句は、堀本さんから「紙たばこと米店の言葉のバランスがとれていて、レトロな雰囲気」と評される一方で、米光さんからは「紙たばこがノスタルジー過ぎるから具体名の方がいい」との指摘があり、議論が白熱しました。(誰の発言かは想像にお任せします)

「紙たばこって言ってるから、いろんな種類が想像されるのであって・・・・・・」
「そこが嫌なのよ」
「象徴的に詠んで、読む人に任せるのがこの俳句ではいい」
「そこを任せちゃいけなくない?」
「任せられない句もある。紙たばこって言うから広がりが出るんです」
「夕涼や米店で買うセブンスターは?」
「なんかメビウスって中二病みたいな名前になってるんだよ」
「しかも“ビ”がbじゃなくてvなんだよね」
「ぱしって決めてほしい気がするんだよな」
「譲らないな~」
「米光さん、セブンスターしか出てこないじゃない」
「5音だとハイライトだよね。ヘビースモーカー感があるんだよね」
「メンソールでは?」
「メンソールは涼しさとつきすぎでしょ!」

 ついには「方向性の違いで、東京マッハ解散か!?」というせりふも飛び出して、そんな4人のやり取りを村上さんがほほえみながら見守ります。「みなさん、ふだんからお客さんがいるライブで句会をしてるから、句のよさを作者や自分以外にも伝えていて、鑑賞が外側に向いているなと思いました。俳句が分からない人にも、みんな違う意見があって、読みが違ってもいいんだ、っていうのが分かっていいですよね。本当に楽しかったです」と最後に話し、3時間の会を締めくくりました。

句会を終えて、千野さんから村上さんへメッセージ

 村上さんの本(フルーツポンチ村上健志の俳句修行)のタイトル通り、本当に修行されてると思ったんです。まず「プレバト!!」の過去の俳句一覧を見たら、もともとセンスがあるわけですよ。その上に比較的若手・中堅のキレキレの俳人の方々と句座を何度も共にしていて、しかも同じところにいるんじゃなくて、いろんなところに行かれてるでしょう。だから、ずっと同じところにいる俳人からは出てこない多面的な作り方、読み方ができる。

 村上さんという方が、いわば「体験取材をします」という体裁になっているけど、体験取材を通して本当に優れた俳人が誕生しているな、って感じがありました。ぜひ句集を出してほしいと思います。だって掛け値なしにセンスがある上に、そういう人はしばしば頑なだったりするんですけど、村上さんはすごく柔軟で。一緒に句座を囲めて、ものすごく楽しかったです。

【俳句修行は次回に続きます!】