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福島あつしさん写真集「ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ」インタビュー 「生々しい生」感じた10年

福島あつしさん=菊池康全撮影

 敷きっぱなしの布団。横になったまま弁当を口に運ぶ男性。物が散乱した室内。笑顔の老女……。

 2004年から10年間、川崎市で弁当配達をしながら、届け先の老人たちを撮影した写真集だ。添えられた文章には、10年の混乱と気づきも率直につづられている。「社会問題を提起したいわけではないんです。写真家と独居老人という関係ではなく、弁当配達人とお客さんという関係で切り取った日常です」

 大阪芸大写真学科を卒業後、バイト情報誌で見つけたのが高齢者専門の弁当配達だった。独居老人の生活に面食らったが、店長は顧客サービスになると思ったのか「お客さんを撮ってみたら」と勧めてきた。カメラを毎日携行して「撮っていいですか」と口にできたのは半年後。「他の人は見られない景色を自分は見ている、これを外に出さなければという思いからぐいぐい撮った」

 だが、作品を見た人が涙を流すのを見て、「お客さんを『かわいそうな人』にしてしまった」という罪悪感にさいなまれる。バイトを辞めたり戻ったりを繰り返した。

 光がみえたのは、友人の感想がきっかけだ。「作品をずっと見ていたら『生』を感じられた」。自身も、お客さんとの何げないおしゃべりや弁当を食べる姿に、死ではなく「生々しい生」を感じていた。

 それからは生きる力強さに焦点を合わせるように。写真群をじっくり見つめ直したのは最終的にバイトを辞めてからだ。「写真の声を聴き、10年間のお客さんたちとのかかわりを自分のことばで体に取り込む時間が必要でした」

 写真集の元になった作品は19年に公募型アートフェス「KG+」の奨励部門でグランプリを獲得。東京・銀座のIG Photo Galleryで25日まで写真展が開かれている。(文・加来由子 写真・菊池康全)=朝日新聞2021年9月4日掲載