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さとうめぐみさんの絵本「まじょのほうき」 思いも寄らないことの連続、自分の人生にも

文:坂田未希子

魔女のほうきで動物が変身

——「ヒューッ ドッシーン!!」。空から落ちてきたのは魔女。ほうきの柄が折れてしまい、変わりになる棒を探しに森へ出かけます。そこへトラがやってきて、残されたほうきの先を手に取り、頭にのせてみると、ライオンに変身!? 動物たちが不思議な魔法で次々に変身していくのが楽しい、さとうめぐみさんの『まじょのほうき』 (ハッピーオウル社)。作品誕生のきっかけは動物園での出会いだった。

 もともと、日本画で動物の絵を描いていました。動物園に行くことが多くて、ある時、(東京の)井の頭自然文化園でスケッチをしていたら、当時飼育係長だった小宮輝之さんに声をかけられたんです。「絵本とか興味ある? 今度、カメの図鑑絵本を作るんだけど、絵を描いてくれない?」って。絵本が好きだったので、ぜひ、ということになりました。『カメのかいかたそだてかた』(岩崎書店)の絵を描かせていただいたのが最初のきっかけです。描くために小宮さんの飼っていた大きなカメを3匹預かって、アパートの浴槽で毎日シャワーをかけてあげると気持ちよさそうにしていたのが懐かしいです。

 その後、お話をいっぱい作ったんですけど、なかなか採用されなくて。当時は、日本画家として活動していたので、自己満足というか、自分の作品を出したいという気持ちがすごく強かったんだと思います。しばらくして子どもが産まれて、絵本を読み聞かせるうちに、お話の作り方が変わってきました。子どもに読んであげたい、一緒に楽しめるものにしようと。それで描いたのが『まじょのほうき』です。子どもがいなかったらできていなかったと思います。

『まじょのほうき』(ハッピーオウル社)より

——魔法によってトラがライオンに、ロバがシマウマに。全身ではなく、立髪、縞模様など、体の一部が変化していくのが面白い。

 ずっと動物の絵を描いていたので動物のお話にしたいと思ったのと、森って不思議なことが起こりそうなので、動物と森という設定から考えはじめました。何が起こると面白いかなと考えて、トラの縞模様がポロポロ取れちゃって、その縞をウマにつけたらシマウマに変身したらどうかと。それが繰り返されて一巡して、起承転結ができたら面白いなと思って、話をつなげていくことを考えていました。

 どうして縞が取れたのか、縞が取れたトラは何に変わるのか。わかりやすいのはライオン。ライオンになるには立髪が必要。何が立髪になるか。不思議なことが起こるなら魔女が出てくるのもいいな。魔女と立髪で何かくっつかないかなと思った時に、そうだ! ほうきのバサバサだ! やった! 繋がったー! と。次の日にすぐラフを描いて、岩崎書店の編集長だった飯野寿雄さんにFAXしたら、ようやく採用されました。ちょうど飯野さんが独立することになって、ハッピーオウル社で出していただけることになりました。

『まじょのほうき』(ハッピーオウル社)より

 作り始めて悩んだのは、本業だった絵。日本画の絵の具で描いてみたり、外国の絵本風にしてみたり。先にお話がカッチリ決まっていたので、絵のイメージが追いつかなくて、いろんなタッチで描いてみました。最終的に水彩を使って、一番シンプルで描きやすい感じにしました。

人生の転機になった一冊

——絵本作家としてのデビュー作となった『まじょのほうき』は、人生の大きな転機になったという。

 学生時代は、ずっと人物を描いていました。大学院の頃に、自分と動物を組み合わせて描いていたら、先生に「あなた、動物の方が向いてるんじゃない?」って言われて、動物を題材にしたら、すごく描きやすくなったんです。自画像は描くのが苦しかったけど、動物にした途端、描くのがとても楽しくなりました。

 それから動物園に通うようになって、しばらくして絵本の世界にも入っていきましたが、当時、自分自身にもいろいろあって、『まじょのほうき』を描くことが心の支えになっていました。この作品があったから乗り越えられたと思います。それまでの1年に数回、個展やグループ展を開いて絵を売って、という生活も一変して、私は絵本を描いて生きていこうと決心するきっかけになりました。作品の登場人物たちじゃありませんが、人生、思いも寄らないことが起こるものですね。

日本画作品『Red Data Animals -ユキヒョウ-』佐藤芽実

——子どもの頃から本が好きだった、さとうさん。「絵本はお話が面白くなくちゃ!」と話す。

 推理小説の、伏線を張って回収、どんでん返し、最後に「あー! つながった!」というのが好きですね。絵本を作る時もそういうお話を考えています。自分が楽しくて、面白くないと嫌。子どもも大人も楽しい作品だったら、親子の読み聞かせの時間がすごく楽しくなると思うんです。うちは、娘と息子が編集者という感じで、作品ができたら、最初に読み聞かせていました。娘はめちゃくちゃ辛口でした(笑)。

 読み聞かせの時間がとても好きで、できることなら、あの時代に戻りたい。育児があんなに素晴らしいものだって知ってたら、もっと早く結婚して子どもを産んでたな、って。絵描きの頃は、ワガママで、自分のことしか考えてなくて、子どもがいたら絵が描けないからいらない、と思っていたくらいです。

絵本の制作当時に描いていた下絵

 でも子どもができたら、こんなに素晴らしいことだったんだと。子どもの純粋さとか、真っ直ぐなところとか、思いもかけない発言に感動させられて、そういう瞬間を真空パックにしてとっておきたいと思っていました。当時の想いが、今も絵本を描き続ける原動力になっています。笑ってる子どもの顔を思い浮かべたりね。私も子どもの頃、絵本が大好きで、絵本で心を満たしていたところがあるので、描くことで自分自身も満たされているのかもしれません。

 『まじょのほうき』は、思いも寄らない展開というのがポイント。読んだ後に、ほかの動物で自分のお話を作ってみるなど、発想力をつけてもらえたら嬉しいです。子どもは頭がやわらかいので、きっと、いろんなお話を作ってくれると思います。最近は、シリーズ化された作品や「こんなお話で」という依頼が多く、ゼロから作品を作ることがなかなかないので、『まじょのほうき』のように、ゼロから作ることもしたい。時間ができたら日本画も、また少しずつ描いていきたいなと思っています。