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俳優・綾野剛さん『牙を抜かれた男達が化粧をする時代』インタビュー 「言葉にする」、僕には残酷な作業

綾野剛さん=小山幸佑撮影

 12年間、僕が撮影した写真と短い言葉をつづった雑誌の連載を70回続けました。そのときどきに出演した作品、そして演じた役が、そのまま投影されています。本にするとき、それぞれを解説、解読する「証言」を書き加えたんですが、執筆中は、かかわった人たちの表情が思い浮かび、とても優しい気持ちになりました。「ギフト」のように届けたい本です。

 この本の製作は、俳優の仕事ととても似ていると思いました。僕の写真と言葉に、デザイナーや編集者が手を加え表現が完成する。映像作品も同じで、多くの人たちの力で完成する。僕個人で形になったものなんて何一つない。証言も、いまの感性で過去を振り返っているので、フィクションです。映像か本か、表現の納品のされ方が違うだけです。

 ただ、僕にとって「言葉にすること」は残酷な作業でした。最終話に「言葉は心に留めるのではなく自らのエンジンを稼働させる為(ため)の燃焼ガソリン」と書きましたが、普段は心に残った言葉を残さず、感謝し、エネルギーに変える。座右の銘も特別持たないんです。僕自身の言葉は「発信」にはなっても「メッセージ」にはできない。だから役者をやっているんです。

 役者は、僕の人生です。人生1回、だからこそ、一つのことに懸けたい。役作りを常に模索していて、どこまでも役に寄り添いたい。彼が倒れそうになったときは支え、彼がせりふを言いたくないと言ったら、相談にのる。親友に近い関係でいたいと思います。黙っていても雄弁に伝わる俳優をたくさん知っています、いつかそうなれたら。

 今回、表紙の絵を、尊敬する友人で画家の佐野凜由輔(りゅうすけ)さんが描いてくれました。僕の肖像画です。描き始めたらすごいスピードで、大胆に描いていて驚きました。彼は僕のことを「こう見えている」と言うんです。僕には見えていない僕が彼には見える。自分の可能性の限界を決めてはいけないなと思いました。命は有限ですが、可能性は無限です。

 (聞き手・森本未紀 写真・小山幸佑)=朝日新聞2021年9月15日掲載

>綾野剛さん「牙を抜かれた男達が化粧をする時代」インタビュー 12年分の役を介して生まれた言葉