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俳優・上白石萌音さん「いろいろ」を出版 生きる、つづる、50篇の日常

上白石萌音さん(C)山本あゆみ

 小さい頃から本が大好きな私にとって、自分が著者になるなんて恐れ多いばかり。ですが編集者の方に背中を押してもらい、飾らず、背伸びをせず、素直に書いてみることにしました。この本には、何げない日常や過ぎ去る思いをありのままの記録としてつづった、50篇(ぺん)のエッセーが収められています。

 私にとって読むことは心の成長に欠かせない営みです。一方で書くことは、自分でゼロから生み出すということ。それは怖いことでしたけど、同時にどこにでも行ける自由さがありました。

 各篇のタイトルは、全て動詞にしました。たとえば「赴く」というエッセーでは、作品に入る前に舞台となる土地を訪れるのが好きだということを書いています。いつも一人で行きますが、頭の中では常に役の人物と向き合っている。それを「一人旅の顔をした二人旅」と名付けました。

 NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」の撮影前には、日帰りで岡山へ。川のほとりを散歩したり、空襲の資料を見学したりしながら、役の安子のことを考えていました。

 50篇の中でも特に書きたかったのが「生きる」という1篇です。自分にも家族にも「死」は訪れるという当たり前の事実が突然恐ろしくなり、何の前触れもなく妹と号泣してしまった幼少期の思い出。その体験をもとに、今の死生観を素朴に記しました。こうやって記憶や今の感覚を記録として残せたのは、自分にとっても大きかったと思います。

 筆が遅いこともあり、特に執筆の後半は場所を選ばず、寝る間も惜しんで一生懸命書きました。朝ドラの撮影現場で、すすだらけのもんぺ姿のままパソコンに向かったことも。でも、締め切りに追われる作家さんの苦しみをしっかり味わえたという意味では、本当に光栄な時間でした。こんなに大変なことはもう無理と思う半面、うれしい感想をたくさんいただき、また書きたいという思いが芽生え始めています。(聞き手・西田理人)=朝日新聞2021年12月15日掲載

>上白石萌音さん「いろいろ」インタビュー 今のありのままを形にしたエッセイ