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真造圭伍「ひらやすみ 1.」 都会のオアシス、木造平屋の新生活

 のんきで素朴で天然の明るい性格で、ある意味究極の癒やし系キャラクターのような主人公。東京で気ままなバイト暮らしの貧乏生活を送る29歳が、思わぬことから都心近くの古い一軒家を譲り受け、新生活を始める物語だ。主人公や周囲の者たちの日常のエピソードが、毎回ていねいに描かれていく。

 ぎすぎすした印象の都会の一角に、ぽっかりと現れる田舎気分の木造平屋建て。それだけでオアシスに出会った気持ちになるが、主人公の性格がまたオアシスみたいにみずみずしい。子供のように素直に目の前のありさまを受けとめていく人柄は、現実的に考えたら純粋すぎる気もするし、ラッキーな状況設定も下手をするとリアリティーを失いかねないだろうが、疑問も持たずに素直に読んで共感してしまうのは、描写の力によるのだろう。一見そっけなく見える絵のひとつひとつに、こまやかな気配りがある。画面の隅々から語りかけてくるささいなイメージが、無意識に読む者の心に入ってきて、しっかりとしみ込む。この地味な描写の積み重ねの説得力には、思わずうならされる。穏やかにゆっくりと進んでいくキャラクターの群像劇の今後が楽しみだ。=朝日新聞2021年9月18日掲載