「私はヴィデオが好き、重たいから」と彼女は書いた。
ヴィデオカメラが一般化し始めた70年代、いち早くその重要性と魅力に気づき、作品に取り入れた一人が久保田成子だった。当時は重たかった。それを「赤ん坊を背負うみたいに」と彼女は例えた。そう、まだ映像を使ったアートは生まれたばかり。米国に若くして渡り、芸術家たちと交流し、展覧会を企画し、日本に世界の最新のアートを伝え、自らも「ヴィデオ彫刻」と呼ぶ独自の作品群を作った。
映像であり、彫刻でもある彼女の仕事を本にまとめるのは難しい。でも編者たちは諦めなかった。図版だけじゃわからないから、彼女の残した言葉を添えた。足りなければ編者たちで書いた。友人の言葉や未発表インタビューも、デザインの力も借りた。あの手この手で「難しい」という思い込みを打ち砕いた。そもそも彼女のアートは、こうあるべきという思い込みを、常に崩した。そして常に志の同じ仲間が近くにいた。同じ熱気を、本書にも感じる。=朝日新聞2021年10月2日掲載